9-背理-1

「"水星"」
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電力というものは、常識的に存在する一つの要素となってしまった。
意識もせずに聖職者がつけた照明。もちろん、電力を使うものだ。
どうして電力が来ているのか?捜査官と二人で黙って立ち尽くしているうちに気づいた、一つの状況であった。
「この島には元々人がいたのか?」
自信を持たず、ゆっくり聞いた。
「それは無いはずだ。既に身内が外に連絡済みだろう、そろそろ来てもいいのだが」
捜査官に、真意を問われずにそのまま流されてしまう。
まだどこかで発電しているのか?あの時計はどうだ?この照明は…。
考えに考えを重ねる聖職者は、捜査官がつぶやいた一言に耳を傾けていた。
「捜査官、という名前のみでどういった役職かがよく分かる。だが、外とはどういうことだ?連絡手段はあるのか?」
この質問には、だんまりであった。
改めて倉庫を見回してみると、ほとんど何も無いことがわかる。
ここで何をしていたのか。タイヤがあるんだ。だが、車を作ったところでどうやって運ぶ?
聖職者はうつむいた。時々捜査官の様子を見る。どうやら、上が気になっているようだ。
自分もと上を見上げてみると、何も異変のない天井が広がっている。
鉄骨がむきだしになっているが、頑丈そうだ。まるで、シェルターのような。
「天井がどうかしたのか?私にはよく分からないが」
「亀裂があるんだよ、天井に。何かがぶつかったにしては大きい」
確かに、よくわかる。遠くからなのだが、本当によくわかる。
しかし、貫通はしていない。第一、していたらチャオの光がこっちにまで届いてしまうはずだから。
ただ、既にチャオの二十分は過ぎていた。狐から覚め、眠りに入った頃だ。
再び倉庫の中を見渡してみても、何も見つからない。ここにいても何も進展が無い。
ここから出ることを提案しようとすると、足音が倉庫に響いた。
だが、すぐ止まった。照明が付いていることに危険を察知したのか。
たった一つの出入り口の横に、這うようにして二人が移動する。
何が来たんだろうか。何が起こるのだろうか。
殺し合いだけは避けたい。まさか、この捜査官の"連絡"が?
だが、捜査官の様子は違う。本当に、不審者が来たかのような対応だ。
小さく、了解と言ってやった。
まだまだ、余裕があったからだ。
突然、聖職者と捜査官の前にある床。そこから、水が間欠泉かのごとく噴出した。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第237号
ページ番号
30 / 40
この作品について
タイトル
「マスカレードと世界観」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第224号
最終掲載
週刊チャオ第250号
連載期間
約6ヵ月2日