8-地下倉庫にて-3
聖職者は侵入者の体から降り、侵入者の首下に手を当てる。
「逆らおうなんてことは思わない方が良い。
君は"胎児"を知っているね?彼らは本当にすばらしい。終わりの無い夢を書き綴っている。
考えることの鉛筆に、書かれることの脳にだ」
力の込められる手に耐えながら、侵入者は唯一つ、言葉を漏らす。
「お前はここがどこだか分かってその体勢なのか?後ろに気をつけたほうが良い」
そんな注意、ただの気を引くことにしか過ぎなかった。
後ろから、釘やネジが飛んできたのだ。続けて、工具が飛んできた。
「正直に言う。俺は"chao"がなんなのかすらわからないし、殺し合いにも興味が無い。
ただ、この島に来た奴らがなぜ殺し合いを楽しむようになったのかがわからないし、興味がある箇所だ。
"chao"を身に付ければ殺し合いが楽しめるようになる、という考えはどうだろうか?なぁ、あんた」
深く突き刺さる釘。そして、その釘を工具やネジが押すのだ。
いずれも、自分の体に張り付く。あのタイヤもだ。
タイヤの山の下で、鋭利なものが体に入っていく感覚に耐えている聖職者の姿がある。
致死傷は免れている。だが、これ以上来てしまうというならばどうなる?
なにか一つでも来てしまったなら。胃袋近くまで突き刺さっているその釘の深さはどうなる?
ただでさえこんな状況。胃液はどこへ行くんだ?
「地下倉庫なのにこんなに大きいんだ。お前も分かっているはずだ。音がかなり響いている。
何を作るところなのか?それくらいは簡単に検討がつくだろう。
ここからは、新製品の車も輸出されているんだ。俺、いや、我々はそういった方面をも担当している」
どうやら、自分に触れたものは力が無くなるらしい。だが、次に力が再度入り込むのも時間の問題。
上の方の引っ張られている物は全てまだ力が残っている。1%も減りやしない。
「先ほど、ガスがどうとか言っていたな?お前も吹っかけられたわけだ。
俺もあれがなんだか気になっている。それも興味の一つだ」
そういいながら、侵入者は入り口付近へ歩く。
手探りで照明のボタンを探す。大抵、入り口付近にあるものだ。ここまで暗くなるとすれば、そうに違いないだろう。
ガラス張りに鍵が必要なスイッチ。迷わず叩き割り、その中のスイッチをオンにする。
静かに、じわじわと明るくなっていく。互いの姿が明るみになる。
倉庫の中にはこの男がいったとおり、車の物と思われるタイヤが転がっていた。
だが、それほど多くも無い。疑問なのが、タイヤくらいしか落ちてないのだ。エンジンなどはどこにもない。