8-地下倉庫にて-1

「弱者に媚びる強者ほど頼もしいものはない」
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時間は前後する。
チャオが一回目の光を放った直後だ。"幻化"、聖職者はとある商社のビルの地下倉庫に潜りこんでいた。
光が放たれる前、雷鳴であたりが白く光った。しかし、扉を倉庫との間に挟んでいるせいか光は倉庫まで届かない。
そして、聖職者自身は倉庫の奥に隠れてはいない。
逆に、一つしかない入り口付近に潜ることにしたのだった。
潜るとはいっても、入り口のすぐ横に立っているだけである。隠れもしない、というよりは、別の狙いがあった。
それは、侵入者ならまず奥を確認するだろうという思考を狙ったものだった。
案の定、入ってきた侵入者は奥を確認しようとした。
自らの"chao"、幻は魂。肉体と重ねると、思いっきり滑っていく。
それで当たってみれば多少は痛手を負わせられるのではないか、と考えたのだ。
穏便に、全てをこなそう。邪魔する者のみを摘み、他は全て眺めるだけにしよう。
緑化と接触したのだって偶然だ。たまたま、前を歩く緑化が振り向き、構えたから戦ったまでだ。
布教活動はしない。ただただ、あの教会の教えを頭の隅においてほしかった。
今は全て違う。穏便に、全てをこなすのだ。
倉庫に入って何歩かしたのを確認し、壁沿いに高速移動を開始しようとした。
しかし、その何秒か前からか、異変は既に始まっているのだ。
突然、何かが倉庫の奥から吹っ飛んできた。
高速移動をし、難なく避けられた。が、倉庫は暗闇。襲ってくるってことは自分が確認できるということになるだろう。
誰がどう見ても"chao"の攻撃だとわかる、その現象。
飛んできたものは倉庫の壁に鈍い音を立てて"張り付いた"。
一方、侵入者側からしたらどうだろう。すぐ横にいるのがわかって、攻撃を仕掛けたのだろうか?
何も見えない暗闇で、だ。
チャオの光で狐化していない。"偶然"、侵入者は扉をくぐり、光から避けられた。
そして今も、"偶然"に聖職者の姿が確認できたのだろうか。
たとえ、入り口から光が漏れていたとしても横には光があまり届かない。
それに、なぜ遠くから物が襲ってくるんだ。聖職者は、"重力を操る能力"であると仮定した。
となると、やはり自分はバレていないはずだ。なんで自分がわかるんだ?
様子を見ながら考えている聖職者を見ようともせず、背後から漏れている光を浴びているその侵入者は周りを見渡している。
"自動で攻撃を行うのか"。そう考えた。
結論が出たおかげか、何の迷いも無く高速で移動しその侵入者に突進をしかけた。
滑った後は力が働き、空気との摩擦でとまるだけ。
弧を描き、地面へ二人接したまま落ちた。侵入者がクッションとなり、聖職者の体にはなんら異常が無い。
体勢を立て直し、部屋の端へと歩いた。そして、角を背にして部屋全体を見渡せる形とする。
その後、侵入者の顔を軽くはたき、交渉を試みたのだ。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第236号
ページ番号
26 / 40
この作品について
タイトル
「マスカレードと世界観」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第224号
最終掲載
週刊チャオ第250号
連載期間
約6ヵ月2日