7-妨げる者-4
「お前の後ろ、屋根にクモがいやがるっ!」
チャオがカウンターに降りてくる。奴がいた。食われかけたのだろうか。
隠遁の言葉に驚き、屋根を見るが既にクモはいなかった。
黒い影が穴を一瞬覆ったのだ。それは確かである。状況から言って、クモであることは明確である。
「見た限り、何もいなかったチャオ」
落ち着き、そう伝えた。
カウンターの上から、パソコンの方にチャオが歩き出す。覗き込むつもりだろう。
隠遁もそれに続こうとした、その時だった。
ゴムが弾けたようなそんな音。電撃が走るような音が一帯に響く。
チャオは何も呟かず、地面へと落ちていった。
「おい、どうした?」
チャオを揺すっても、軽く頬を叩いても微動すらしない。
「なぁ、光を照らしたところは"chao"の効果が0になるんだよな?」
隠遁がチャオに質問をする。
「言ったとおりチャオ」
「じゃあこれはなんなんだ?」
間髪入れず二言目を挟む。
「おそらく、そこに"chao"を仕掛けた人間がいるってことチャオ。それも、光の影響を受けない場所に潜んでいる奴限定チャオ」
先ほども、チャオを確認に行かせてから光のことを話した。
もしかすると、こいつらに何かあったんじゃないか?とも考えてしまう。
だが、今一番に考えたいことは倒れこんでしまったチャオが何を見て驚いたか、なのだ。
隠遁の顔を見て驚いたか?そうではない。驚いた顔をして振り返り、下降してきた後にクモが上を過ぎった。
つまり、驚いた顔はチャオが驚いた後にした顔なのだ。
クモ以外に、何かを見た。そこがポイントであった。
隠遁含め、参加者の大半。全てかもしれない。そのことを気づかないことは大きな罪である。
下に落ちている紙くずを拾い、先ほどチャオが歩いた場所に落としてみる。
何も動かない。あの音が鳴らない。
勢いで、隠遁自身がそこを触る。何も起こらない。パソコンを触っても、カウンターの奥まで歩いても何も起こらない。
パソコンの画面を見る。なにやら、文書を書いていたらしい。
この殺し合いのルールや、参加者の特徴。そして、"chao"のことまで。だが、途中で途切れているようだ。
よく見てみると、下にスクロールできる。だが、マウスは存在しない。となれば、キーで直接下まで持っていくしかない。
早速入力する。下まで、下まで。
だが、"chao"の説明から先が無い。どういったことか?
それでも、不信に思わずスクロールをする。
スクロールバーが下まで降りきる。そこで見たメッセージが、トラップであるという証拠になった。
[私は下にスクロールしない]