7-妨げる者-3

その建物は、大きめの規則正しい形をした建物。
ここは入り口。そこには、以前。いや、今日足を踏み入れた光景があることに驚いた。
入る時では気が付かなかった。あの、回転ガラス。
そうさ。今、聖職者を撃ったあの場所に来たんだ。マンションだ。
無意識に十字架を握っている自分が、回転ガラスに映っていた。
その時だった。後ろの方。カウンターの奥で物音がした。
慌てて見に行くと、そこには狐の姿があった。だが、尻尾が無い。耳の位置が変だ。
「まだ狐になっている。だが、そろそろ20分過ぎるだろうな。
早くクモを殺さないといろいろ面倒になることはわかる。でもさ、これはもうどうしていいのか?」
困り果てる隠遁に、物音の正体である狐化した人間の近くに寄っていたチャオが驚いたように言う。
「この人、狐になったことで椅子から落ちたって感じの状態チャオ?」
その言葉を聞き、ゆっくり隠遁が覗き込む。
なるほど、そういう考え方もある。ここはマンション。カウンターのところに管理用のパソコンが一台おいてある。
それを覗いているうちに落ちてしまったのだろう。間抜けな話だ。
だが、はっとする。キレのいいチャオが驚くのだから、何か奥があることを感づけばもっと気づくのは早かったに違いない。
なぜ、長期間放っておかれたこの島に電力があるんだ?
時計もそうだ。どこで管理しているんだ?他の奴は気づいていたのか。あまりに無頓着な自分に、うなだれる。
「あまりに目立つようなこんな場所で物を弄ってる。それほどに余裕があるのだろうか?
そうとは思わないチャオ。ここで僕は考える。こいつは一人じゃない。仲間に監視を任せているとも思える」
カウンターを探るチャオと、その様子を覗き込む隠遁に向かって持論を言い聞かせる。
回転ガラスが仮にも入り口なのだ。外から見えるし、隠れる様子はあったのだろうか。
「ここは僕が探るチャオ。直接見ているのかはわからない。この真上なら、音でわかる気がする」
そういうと、カウンターから上へとゆっくり上昇していった。チャオの石の能力だ。
触れるものを全て削り、穴を作りながら二階、三階へと移動する。
このマンションは旅館のように、部屋の入り口のドアが中からでしか確認できない構造になっている。
湿度が上がると弱いのだが、この島のつくりからはここは快晴であると決まっているのだ。
雨が降っているのはクモの所為ではあるが、それ以外は至って快適であった。
隠遁は石を使うチャオが上まで上がっていくのを確認すると、カウンターにあるパソコンに目を落とした。
だが、そこには一つの驚きがあった。
キーボードとモニターと本体が一体化している。そう、パソコンはパソコンでもノートパソコンであった。
電源ではなく、バッテリーから電気を引いているのがわかる。
電話線がつながっているが、それは近くにおいてある国際電話の線を引っ張っているものだ。
電話自体は電気が通っていないので使えないのを確認した。
どうも、このパソコンを"他所から持ち込んだ"ようなのだ。
電力が無いのも計算済みかのように、あたりには電源につなぐコードが無い。
十字架のナイフをチェックで通し、今ここにある事実から考えても持ち込み禁止というのは甘すぎる規制なのだろうと思う。
パソコン一帯に触れたら何かが起こるだとか、"chao"が潜んでいる危険が頭を過ぎる。
狐化は既に解けている。皆起き出すだろう。早くしないと。
「僕らの能力、"チャオ"は君たちが使う"chao"と別物であり、軽く力を上回るものチャオ。
僕の光で照らされた部分からは君たちの"chao"による影響は無くなるチャオ。
この男が狐化していることからも、ここら辺は既に照らされていることがわかるチャオ」
その言葉をスルーしようとしたが、そうはいかない。キレるチャオたちが、今遅れてそのことを言うのか?
だったら、今確認しに屋根まで一回りしにいったチャオはどうなる?クモに食われてしまったなら大変なことになる。
そう考えると鳥肌が立ち、どうしようもない気持ちになってくる。おそらく本当のことを喋っている。
穴を作りながら上昇していくチャオに、大声で叫ぶ。
「戻って来い!早く戻るんだ!」
隠遁の叫びを聞き、丁度上り終えたチャオは周りを見渡した後、もう一度石でゆっくり下降を始めた。
異常なく降りてくる。が、様子が変だ。
隠遁も、降りてくるチャオのどちらも変だった。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第235号
ページ番号
23 / 40
この作品について
タイトル
「マスカレードと世界観」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第224号
最終掲載
週刊チャオ第250号
連載期間
約6ヵ月2日