7-妨げる者-1

「あなたはどこにいるんですか?」
―――

「漸次向かう、そうしないと間に合わないんだ」
家々が密接した路地裏の屋根を隠遁が行く。チャオたちも羽を使いながら必死に追いかける。
遠くから見ていたのはいいが、手を出せなかったことを悔やむ。
"chao"の隠遁を使い、何かに同化しているとしよう。その時、彼の目には世界が映らない。
光を認識して景色を見る人間にとって、その網膜をも変化させてしまうとなると話が変わるのだ。
空気に同化しているとしたら、光はそのまま通り抜けてしまう。
屋根に同化しているとしたら、光は跳ね返ってしまう。
もう、それは目ではないのだ。別の物質。
なのにも関わらずクモを確認できた隠遁。そう、それは移動の難点が影響していた。
歩くスピードの移動のみ許可されているのだ。
クモは既に表の道へと至っている。目的はなんなのか?それすらも理解ができなかった。
浮遊していて、クモを確認した時点でそいつは追いつけそうな位置にいた。
浮遊を完了するとどうなるか?クモは常に移動しているのだ。
当然、わからなかった。表に出てみたはいい。確認できなかったのだ。
雨が激しい。視界が悪くなり、チャオもあまり遠くまでは浮遊できないというのが幸いした。
そのショックに立ち尽くす隠遁。その背後に、やっと追いついて息を切らしているチャオがいた。
「奴は下にいるチャオ?」
「いないみたいだ」
その淡白な会話がすべてを物語っていた。
と、そこでチャオが人間が狐化している事実を思い出す。
「人間が襲うのだとしたら狐になっているのはどう考える?」
「なんだそれ?」
「この島に物好きが近寄らないのも、君がここに来るまで住んでいたところで情報規制が行われているからだと思ってたチャオ」
「そういえば一度も世間に流れなかったような」
この事件は明らかに隠してある。それは、隠遁が発した言葉の中にクモは全部死んだかもわからないという一文があったからだ。
あの時、国際電話で状況を伝えた住人はいたのだろうか。
事件の後、保護されたのは隠遁のみである。捜査を行った上であり、だから一人だというのはほとんどが死んでいることを意味する。
小さな都会並に人口はいたはずなのにも関わらず一人であるのは、生存者が隠遁一人だという事実を示している。
これが運命なのか、というとそうではない。偶然。クモにとって、殲滅することなど簡単であった。
たまたま、隠遁がクモに寄生されていたから。チャオに助けられたから。たまたま、なのだ。
保護され、大陸へと渡り今に至る。再びこの場に足を踏み入れるという行為自体は、少し異常でないとできないことであった。
「世間に流れていないからこそこの島には君たちが久しぶりに来たことになるチャオ」
チャオは困った顔で隠遁に目を向ける。
「来ちゃいけない理由でもあった?」
その視線を感じ取ったのか、隠遁がチャオに疑問を示す。
それに対してチャオは、
「奴の逆鱗に触れたのは、そのためかもしれないチャオ」
と、うつむきながら自身無さそうに呟いた。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第235号
ページ番号
21 / 40
この作品について
タイトル
「マスカレードと世界観」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第224号
最終掲載
週刊チャオ第250号
連載期間
約6ヵ月2日