6-蜘蛛と光と石と-5
隠遁はここに来た人間の目的などを包み隠さずに話した。
チャオには理解のできぬ感情。人を殺したい殺人衝動。
ピュアなチャオには異世界のものと感じられる。
理解できれば異常だといえば止めるだろう。止められないのだ。
暴走した列車は外側から止めようとしても無駄。内側から止めるものなのだ。
「とにかく、共同戦線だ。あのクモを仕留める」
隠遁は話の流れを本筋へと戻す。
「クモがどこにいるか分からないチャオ」
「見ていたから分かる。あの短時間で移動できる距離。
それを死角へと移動するものであったとしたら、この建物の裏。路地しかないよ」
そうは言うが、正直、移動に困る狭さであった。
物質に同化する能力。それは体の全てをその物質と同等のものにしながら、感覚を全て失わないもの。
眼球に青い円が映り込めば狐化するのだが、ただの石材に光が映るだろうか?
誰も石を見て髪形を整えない。日が当たる石を見て眩しいとは言わない。
だから見ることができたのだ。チャオの光をも避け、簡単に。
「路地を探すチャオ?追い込んだと考えればうれしい限りチャオ」
早速辺りを見て回ることにした。
「石に触ってチャオ」
隠遁にそう言って、石を差し出した。
言われるがままに触ってみると、不思議と体が自由になった感覚。
石から手が離れない。二匹のチャオはどうなんだろうか。
同じようにして浮遊し続ける。ただ、水平である。
建物に足がひっかかりそうになる。だが、意識して石をすべるようにすると手がすべるのだ。
斜めにして、だいぶ楽になる。不思議なことに、足と触れた部分は綺麗さっぱり無くなっているのだ。
削り取っている感覚。これも"chao"なのだろうか。
しばらくしたころだ。路地ではなく、表の方にクモが見えた。
「おい!あそこだ!クモがいる、早くしないとマズイ」
だが、声は届いているはず。しかし石がまだ三人を浮遊し続けさせる。
「AからBに動くのが能力チャオ。AとBの間にCを作っても、Bに移動しきらないと駄目チャオ」
「悔しいけど、これじゃ」
苦悩し続ける隠遁。表からは離れてしまう。
だが、すぐ向かえる距離でもある。
雨が弱くなってきた。ほかの事に力を使うつもりだろうか。
一刻も早く止めなければ。