6-蜘蛛と光と石と-3

カエルを殺すと雨になる。アリが行列を作れば雨になる。
伝承とはまた違う、クモの雨降らし。
人里どころか、大陸をも離れた島国に、雨が降るだろうか?
そんな些細なことをも忘れている。人間は考えることができない。
クモは違う。その穴を利用しようとしている。
"雨"というものは、基本は水の循環の過程の一環である。
貯水池や源泉が水を流し、川となり、大海へと流れ出る。
日光に照らされ蒸発し、雲を作る。そして、その雲が雨となる。
この島には山がある。だからこの雨は寒い。
しかし、一つ問題がある。
風が一方からしか来ないのだ。風の谷。そこに風が集まり、竜巻をも作り上げる。
こんな長く、こんな激しく。そんな環境で長いにわか雨が発生するだろうか?
雲は散ってしまうはず。風の谷が、山が集めた雲を散らせてしまう。
けれど、雨は降るだろう。ほんの少しだけ。
ほぼ快晴なのは間違いない。これは珍しいケースなのか?
この島に限っては、違うとしか言えない。
風の谷が散らせて、都市部などに雨を降らすだけであり、こんな雨はありえない。
このように、糸を見えないまでの雨を降らせる。
水滴は目立たない。落ちてくる雨粒が吸い取り、落ちていく。
目先のことを追うことばかりに集中しきっているチャオを静かに追い詰める。
じっくりと雲を作り、雨を降らすのだ。風の谷のこともあるが、"chao"には関係が無い。
既に、三角錐の形を模る壁を作り上げている。
もう逃げ場は無い。チャオはそのことにも気がつかない。
「反対側の建物に移動するチャオ」
と、道路を挟んで反対側の道路に移動しようとした時のことだ。
石に触り、移動を試みる。
後ろなど振り向かずに。糸を軽々断ち切り、反対側の道路まで移動する。
声を出すと感づかれる。黙っているが、驚きは小さなものではない。
軽々と断ち切られたのだから。まだチャオは宙に固定されているクモに気がついていない。
だが、一方が断ち切られたのでバランスが崩れる。
しかし、瞬時に糸を出せたおかげで完全に下には落ちなかった。
だが、問題がある。人間並みの知能。人間は、予測できないハプニングに最善の方法で対抗できるだろうか?
答えはNoだ。無理にも程がある。
屋根の裏側に少し巻き込むようにして糸を張っていたのが、今回は屋根の上直接に張ってしまった。
当然、崩れ落ちる。チャオが石での移動中にその光景に気がつく。
「後ろ、後ろ!」
「いつの間にいたチャオ」
しかし、止まらない。これがチャオの"チャオ"だからだ。"chao"とは別物、だが明らかに何かが違う。
反対側に移動し終わった時、クモは既にどこにもいなかった。
上にいる可能性も考慮したが、見上げても見つからない。
再び見失った。20分間の睡眠を与えてしまっている。
もしかしたら、クモの狙いは人間の惨殺かもしれない。
「急げ!まだ詰んでない!」
そうは言うものの、目に入り込む雨粒のおかげで目を十分に見開けない。
どんどん強くなっていく体感。このまま身を貫くかと思えるほどだった。
そんな中、先ほどまでいた屋根に変なものが下から盛り上がっていくように見える。
"ろうそくが溶けていくのを、逆再生"するようなその動き。
これから濡れ始める、その人間は狐化していない。
瞬時にチャオが光を乱反射させるが、まだ目は中心部の辺り。
おぞましい光景だが、これは"chao"のなせる業。
光を放ってから数十秒。完全に人の形へと変化した。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第230号
ページ番号
18 / 40
この作品について
タイトル
「マスカレードと世界観」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第224号
最終掲載
週刊チャオ第250号
連載期間
約6ヵ月2日