6-蜘蛛と光と石と-1

「一日最低限の睡眠」
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夢幻は固定されたまま、視界に着生を捕らえ続ける。
攻撃された時点で攻撃が巻き戻る。その秘密を知るためには、夢幻かその視界に捕らえている対象に"chao"による攻撃が加えられる場合のみ。
花を咲かせば発動はするものの、何も知らない者にとってはタダ単に攻撃が与えられないといったところ。
対象か術者自身に攻撃すると、時間が巻き戻るだけでなく記憶が残る。
第三者以外の、その二人にだけ記憶が残るのだ。
そして、最も恐ろしいのが術者以外は巻き戻る前の行動を繰り返すことになる。
記憶を持っている術者、夢幻のみが動けるので、相手にバレないように攻撃を開始してしまえば圧倒的有利になる。
視界に捕らえておけばいいので、二人を相手にするなら無傷のまま一人を殺せる。もう一人は痛手を負わせるだけで精一杯であろうが。
それに、緑化が体験したサングラスの男の攻撃や足についた着生のエアープラントが消えてしまった現象。これも夢幻の仕業であった。
対象が攻撃された場合、その体にまとわりつく"chao"は全てその"chao"を持つ者に寄生する。というより、その事実に真っ先に気づけば「返ってきた」という一言であるが。
巻き戻った時間内で、夢幻が何かを触ればその時間内であってもその触ったものは動くことが出来る、というのもひとつの特徴。
また、行った行動が繰り返し繰り返し再生されるが、落雷や、投石といった行動の結果も繰り返される。何もしてなくても石が勝手に浮き、力をつけて飛んでいくといった現象も夢幻の時間内であったら珍しくない。
攻撃手段が無いのもまたひとつの特徴であるか。
しかし、サングラスの男が投げたガラスは一度当たった。今だって血が垂れ、痛々しい傷口が見られる。
そういった痛々しい傷口を抱えているのが、まだまだいるが。緑化もその中の一人。
サングラスの男のガラス、聖職者の十字架。腹と左腕が物凄く痛い。無理に動かせば失神さえしそうなくらいだった。
浮ついた気持ちで座っていると、その異変は起きたのだ。
「OOOOOOHHHHHHHH!!」
サングラスの男の叫びであった。悲痛といった感じはしない。驚いたのか、絶望したのかだ。
階段の様子を見ると、確かに夢幻はそこにいた。
何が起こったのか?蚊帳の外にいる第三者の緑化にはわからない。
実際、何も起こってないのかもしれない。だが、事実はやはりあるものだ。
サングラスの男が"種"を夢幻に飛ばしたのに、よけられた。そう、"chao"による現象であった。
「Do u want a knuckle sandwich?」
お前はブン殴られてぇのか?とヤジを飛ばしながら、サングラスの男はサンドバックを殴る要領で、ラリアットを首筋にきれいに決めた。
夢幻はガラスで抵抗を試みたのだが、威力が強すぎる。
しかし、着生のエアープラントはまだ足から剥がれない。いや、数が減っている?
サングラスの男の力が強すぎるのか、ガラスを手放す。
ガラスが階段を音を立てて落ちていく。それを緑化が拾い上げる。
そのときだった。ここにはいない、もう一つの何か。
ガラスに中が青く塗りつぶされた円が映っていた。
それを見た瞬間のことだった。
全身に狐色の毛が生え始めた。それどころか、"尾"まで。
耳の位置がズレる。その場に横倒れになる。
声が出せない。どんどん体が変わっていく。視界はまだ開けている。
夢幻にも同じ症状。サングラスの男にもだ。
着生はどうなんだろうか。既に、こうなっているのか。
緑化を含め、この場にいる四人。そして、この殺し合いに参加している全ての人の体が"狐"に変わり始めた。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第230号
ページ番号
16 / 40
この作品について
タイトル
「マスカレードと世界観」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第224号
最終掲載
週刊チャオ第250号
連載期間
約6ヵ月2日