5-潜伏-3
「なぁ、これが攻撃かい?僕にはさっぱりだ」
と、舐めきったように挑発する。
その後、目の前の潜伏には目もくれずに緑化を再度見る。
まだ追い込まれているっていう状況は良くわかる。助けには行かない。ただ、"利用するのだ"。
「"潜伏"ぅぅぅぅ!!くらえぇ!」
激しくなる雨の音にかき消される直前の声を聞いていたが、それでも夢幻はそこに直立していた。
"潜伏"の雲が夢幻の足元へと吸い込まれる。そして、勢い良く雷が噴出した。もちろん、夢幻はそれを食らう。
倒れてもいいはず。よけ切れなかったのは見えている。
だが、"立っていた"。
潜伏は自分が雷を当てたことを"知っている"。だからこそ、この状況をどう見ればいいのかわからなくなる。
潜伏の体が勝手に動き始める。意思じゃない。何かに憑依されているかのように、目の前の夢幻を睨み付けながら。
しかし、その感じは潜伏自身にはおかしいとは感じられない。"自分の意思で行っている"行動だと自分でも思っているからだ。
「"潜伏"ぅぅぅぅ!!くらえぇ!」
言おうとしていないのに、もう一度同じ表情で。もう一度同じ声量で。同じ内容を叫んだ。だが、潜伏自身にはそれは不自然じゃない。それがもう不自然であった。
この感覚は隠遁が逃げ出していない、あの状況で隠遁が感じていた。が、これは"あくまでも隠遁が感じていたこと"。
雲が同じように夢幻の足元へと吸い込まれる。
「"夢幻"という能力はだ。狙った相手に前を向かせようと幻のような体験をさせる。君は次、忘れてしまうんだがね」
と言い終えると同時に雷が噴出す。ここまで同じ。そして、雷が当たった。
そこまでも同じだ。だが、再度状況は戻ってしまう。
「"潜伏"ぅぅぅぅ!!くらえぇ!」
雲を無視し、潜伏をその地点へと無理やり動かす。
服を引っ張り、やっとその不自然な状況に気がついて混乱し始めた潜伏はきれいにその地点へと崩れ落ちた。
そして、雷が潜伏を襲う。運悪く胸部に雷が見事に当たってしまう。
当然、ショック死。イチコロであった。
「僕とその幻を見る者は全てを受け入れなくてはならない。その周りの者は、既に運命を数回繰り返している自分に気がつく。
だが、気がついてももう遅い。幻も、"夢"さえも見られない。選ばれた者だけが"夢幻"を見ることができるのだから」
そういい残し、急いでとある路地裏、とある建物へと潜り込む。
「落雷の正体は軽く殺されている。」
だが、それは落雷ではない。立派な"chao"であったが、殺されてしまった。
侵入者は夢幻、その目的は特に無い。意気込みも何も無い。
が、"珍しい夢"みたいなものを見ようとしてここまで来たのだ。
珍しい夢。それは、いろんな物を巻き込んだ「胎児の夢」でもあるのかもしれない。
そう、これはまだ序章。誰も胎児が見る夢へと到達していない。何も考えず見る、その真理を追い求めている者がここにもいた。
そして、物語は現在へとリンクする…。