5-潜伏-2

なぜかこの時、夢幻は隠遁を一回見る。
向かいの男を見直して、直後に男に向かって勢いよく走り出した。
男が夢幻に指を指すと同時に頭上の雲が動き始める。
目の前、50cmくらいの地点に雲が沈んでいく。そのまんま、地面に吸い込まれるように。蒸発が逆再生で戻るように消えていった。
それでも夢幻は走り続け、その吸い込まれた地点へと足を踏み入れた。
瞬間、地面が大きな音と真っ白な光を放ち、雷鳴を轟かせ雷を落としたのであった。
確実に当たった。空から落ちてくる静電気の塊、雷とは違い、地面から空に放出する形の雷であった。
が、夢幻の体にその雷が当たると同時に、"すり抜けもせずに"雷は消えていくのだった。
その様子は、風船にいれる水のようである。
だが、次の瞬間だ。夢幻は何事も無かったかのようにそこに立っていた。
あの雲は男の頭上にある。痛みどころか、攻撃すらなかったかのようにそこに立っていたのであった。
夢幻がその50cmの地点から少し横にズレると、男が指を指し雲をその地点へと吸い込ませていった。
夢幻が笑みを浮かべた直後、その地点から雷が噴出す。
ちょっと噴出し、突然消える雷。そこに誰かがいるかのように、"吸い込まれるようにして消える"。
「…なんだこれは?」
雲をもう一度頭上に出し、夢幻の足元へと吸い込ませる。
直後、雷が噴出す。そして、当たり前のように夢幻に雷が当たる。
しかし、次の瞬間の夢幻は何事も無かったように立っていたのだった。

「もう既に何回かお前は死んでいるんだ。僕にその雷を当てたのが悪かった」
そういいながら、"頭上に雲のある男"の後ろに回りこむ。
まるで気づかないように。絶対に気づいていてもおかしくないのに、男は前を向き続け、更には指を指して50cmの地点に雲を吸い込ませる。
それを見た夢幻は、男を前に突き飛ばした。そして、雷を自分自身に浴びせる形へと仕向けた。
黒焦げにはならない雷。しかし、体全体に雷そのもののダメージが行き渡っている。
体中がけいれんを起こし、動かない。その男が立っていたと思われる高さの少し上に、雲が出来始める。
まさに、男の頭上。そして、雲が勝手に動きはじめる。
地面に吸い込まれる直後、夢幻がその位置に男を動かす。
そして、雷が噴出した。もちろん、地面に倒れ込んでいた男はそのまま食らう。
けいれんも無く、ピクリとも動かない。
その様子を見て、隠遁は走ってその場から去った。"やっと動けた"隠遁の考えでは、一方的な勝負すぎて不意打ちもできないと読んだんだろう。まさにその通りだった。
しかし、なぜか雷を二度も受けた男が雲を出した。
無言で、体をピクリとも動かさずに雲を操作する。
夢幻の足元へと動かした。
そして、勢い良く雷が噴出したのである。
例の如く、もう一度あの状況へと変わる。

男が立っていて、雲を出している。夢幻がそれに向き合っている。隠遁がその様子を見ている。
「ここで一から録画だ。色々と計画が狂ったからさ」
と夢幻が平然と言っている。
男が雲を出したまま、構えている。まさに、これから交戦開始といったような様子だった。
隠遁はたまらず、その場から逃げ出す。
ため息を吐き、夢幻が目にしたものは… 割れたガラスから見える緑化の姿。
追い込まれているように見えるが、そんなことは気にせずじっと見つめる。
「おい、ビビってるのか?」
男がそう聞くと、
「それは鏡に向けて言った方がいいんじゃないのかい?」
と夢幻が返す。そして、小声でこういった。
「やめておいた方がいいのに」
憐れみすら感じられる、その言葉にはこの勝負の結果すら物語るものがある。
「"潜伏"って奴だ。この雲はな、罠のようでもあるし先行的な攻撃でもある。そこまで教えておけば向かってくるか?」
それを聞いた直後に、潜伏の方に勢い良く走り出す。
雲を"50cmの地点"に吸い込ませ、そこに夢幻が踏み込む。
だが、踏み込んで一瞬でそこを離れる。その様子は、何も知らない者から見れば「攻撃を完璧に予想していた」といったように。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第229号
ページ番号
14 / 40
この作品について
タイトル
「マスカレードと世界観」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第224号
最終掲載
週刊チャオ第250号
連載期間
約6ヵ月2日