5-潜伏-1
「一人、二人、三人」
―――
あまりにも交戦が続きすぎて、腹の痛みが再度催す。
そんな時に、その現象が発生した。
「幾度となく同じことが繰り返されている」のだ。
緑化の投げたガラス片は階段にいる侵入者へと飛んでいく。既に二回。同じ投げ方、同じ力で、同じ的を狙って投げた。
しかし、これは外れる。一回は当たったというのに、そこだけ繰り返されない。
投げ終わり、冷え対策のためにも服の方に走り、服を着る。そして、再度着生の元へ戻る。
「攻撃はしてこない。おそらく、できないはずだ」
そう促し、サングラスの男の胸に花を入れる。
鼓動が蘇る。体中に血液がわたる。
その様子を見て、ガラスの方へ歩く。そして、花を咲かせては抜き、ガラスにする。それを繰り返す。
「今のは?」
「まもなく蘇生する」
サングラスの男の胸に手を当て、着生はそれを認識した。
侵入者はピクりとも動かない。じっと、こちらの様子を伺っている。最初のガラス片でケガをした右肩を押さえている。
薄くしたところを肘で突き破り、その奥にもまだガラスが張っている場合にはそれも突き破る。
穴がどんどん開いていく中、サングラスの男が蘇る。
人一人分の穴が開いたのを確認して、侵入者の方へ歩く。
小声で、着生がサングラスの男に事情を説明しているのがわかる。
「攻撃できないんだろ?結局はお前も。もう俺は攻撃できる」
緑化がそういうと、侵入者は手に持っているガラス片をかざす。
「これで体がどう傷つけられてもいいんなら、だけどね」
その言葉の直後、着生が脇にエアープラントを仕込む。つまりは、ガラス片をどうすることもできなくなる。片方の腕は上げるのも辛いといった現状だからだ。
「私の視力と同等に、エアープラントは風景を私に教えてくれるんだ。そして、見える範囲にエアープラントは根を張る。しばらくそこに立っていろ」
と、着生が言う。それで安心したのか、緑化は横を通り、階段を下りていく。
落雷の危険があることを思い出したからガラスを通らなかったのだ。そのガラスから着生とサングラスの男を落雷が襲ってくれれば、と考えた。
階段を完全に下りると、ガラス片が背中に当たる。
侵入者が動かせる関節。肘の関節を曲げ、後ろに投げてきたのであった。
しかし、痛みも何も無い。乱暴をすることもないから、そのまま放っておいた。
そのままその店を出て、路地裏へと戻る。雨が酷い。即戻る。
入り口の隣に楽な姿勢で座り込み、雨が止むのを待つ。雨が降り出してから時間は何分経っただろうか。
だが、今最も気にしている落雷の原因は"既になくなっていた"。
もちろん、亡くなっていたという意味でだ。
消したのは、あの侵入者だった。
今から数分前。
雨が降り出し、参加者が雨宿りをする建物に入りこんでいる、その後だった。
緑化の店に入り込んだ侵入者、"夢幻"は何かを探しているようだった。
周りと同じように、建物を探していた。
だが、争いを避けるためにもと人気の少ないところを見つけようとしたのだった。
しかし、道路のど真ん中。そいつはいた。
「あんた、動かない方がいいぜ。一歩もな」
歩道の端を歩いていた夢幻、その男は指を指しながらそう言った。
「それって僕に言っているのかい?」
笑いながらそう答えた。
「死にたくなければ。死にたくないだろ?」
通りがかる人もいる。が、皆急いでいた。
しかし、一人だけそれを観戦している者がいる。いや、詳しく言えば夢幻からただ見えただけ。
この二人には、「彼が"隠遁"という"chao"に気づいている」ということがわからない。
どこからでも見える、ガレージの中にいるように見える。実際にそうなんだが。
軽く雨宿りをするのとついでに、楽しく夢幻と、その向かい合っている男を見ている。そう、戦い終わって生き残った方が弱っていれば、十字架で一突きしようと目論んでいた。
夢幻はそんな隠遁に気づき、だが相手にも気を配る。
「あいつじゃない。お前だよ。わかってるんだろう?」
向かいの男が夢幻に話しかける。
「わかってるさ。あんた、僕を殺そうとしてるんじゃないでしょうね?」
そう言い返され、ため息をつく。しばらくして、向かいの男が口を開く。
「お前、誰かに惚れてるだろ?」
急な話に、驚き戸惑う夢幻がいた。何に惚れてるって急に聞かれても、と思ったがブラフであると考え、何も聞こえないことにする。
だが、ブラフでもなんでもない。挑発だった。
「自分に惚れるって書いて"うぬぼれる"って言うんだ。俺に見つかった時点で終わりだな」
言い終え、頭上に黒い雲のようなものを出す。体表から蒸発して出て行く湯気のように出て行ったその気体は、男の頭上へと移動した。
雨も通さない、一つの固体として成り立つようなその黒い綿のような、雲。その下には雨粒が来ない。激しい雨だというのに。
「それが"chao"だな?僕は戦う気はないし、この場は逃げるとするけどね」
と夢幻が言うが、向かいの男はそれを許可と言いたそうな態度でこういった。
「いいや、終わりだね。俺に見つかった時点で、な」