4-夢幻-2

足でガラスの亀裂を触っている。ガラスについていたエアープラントはいつ消えたんだ?
消えたと感じたから動けたんだ。何も思わなかった。固定されているのに、平然と歩き出す緑化を見て、着生は目を丸くする。
動く。動き出した。また同じだ。
「?」
不思議に思ったことがある。サングラスの男が叫ぶ前に、指をはじいて何かをこっちに飛ばしているのだ。
それは俺の体に触れる前に、大気圏を垂直に突入するかのような隕石と同じ消え方をしている。
粉々に、塵も見えない程度に。
「Screw U!!」
雷鳴が轟いた。落雷し、再び時間が…… 戻らない。
自身の体から出てくる木の根のようなものを見て、サングラスの男は驚いていた。
その時、意を決してサングラスの男に突っ込んだ。
瞬間、指で弾いたものが緑化の体に入り込む。が、緑化自身は気づいていない。感知しない。
右手で胸に花を生やし、それを引き抜く。
サングラスの男はその場に崩れ落ち、魂が抜けたかのような表情をしている。
"心臓をえぐった花"を着生に見せ、こう叫んだ。
「交渉だ。お前らは二階にいろ。24時間、俺に手を出すな。その条件を守れるのなら、この男の生き返らせ方を教える」 と。
偶然、"chao"の攻撃としか思えないものを食らったおかげでもある。
それも、その攻撃は緑化に手を貸すかのようなものであったから。
見たところ、この"着生"はサングラスの男を尊敬している。普通ではない尊敬だが、殺してはいけない存在だろうと感じさせる言動がいくつかあった。
それも踏まえての交渉。
「………。飲みますよ。まさか、逃げられるとは。…どうなっているんだ」
驚きを隠せないのはその場にいた全員である。突然現れた現象により、混乱が生じたのだ。
また、その条件を変更した。「緑化がこの場を去る際にその方法を伝授する」といったもの。
より安心だからだ。"着生"はやむを得ず、これを飲んだ。
二階にいさせるので、避けるためにも"緑化"は一階へと移動する。
「一人います。一階に、一人」
"着生"が"緑化"を見てそういった。階段に足を運ぼうとしたその瞬間。
警戒してたのもあり、戻ることが出来た。
「どうして分かるんだ?」
「エアープラントは私の目になる。ひとつ、人影を見た。それでも下に下りるんですか?」
小声でやり取りをする二人の目線は、階段に集められた。
「何を要求したい?」
緑化が階段を見ながら着生に聞く。
すでにガラス側。いや、部屋の中央にサングラスの男を含め、集めていた。
着生も落雷の正体に感づいているし、一階に誰かがいるという情報もある。
中央が一番いいところなのだ。
「共同戦線です。彼を蘇生させ、向かい撃ちましょう」
「逆に俺の危険も考えろ」
「心配は要りません。絶対に手を出さないと誓います。一度やられたも同然な身ですし、弁えています」
しばらく考えたが、緑化には手を組むという考えが無かった。
警戒を最優先し、自分の立場として最も適切な状況を選んだ。
「蘇生はしない。手も組まない。だが、1対2で戦う。これがこっちに取っちゃ一番なんだけどな」
希望であったが、飲んでもらえるとは思えない。
だが、着生は本当に弁えていた。身の程を。
「分かりました。お互いの身が危険だとしても、絶対に助けあわないといった条件ですね?ならばこちらからもひとつお願いしたい。蘇生の方法だけは死守願う」
かたく握手をし、それぞれがそれぞれのために戦う。
条件どおり、緑化は花を守りながら戦う。信念どおり、着生はサングラスの男を守りながら戦う。
しかし、条件上気がかりなことがひとつだけあった。
それは、"緑化の花は一輪しか咲かせることができない"という点だった。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第228号
ページ番号
11 / 40
この作品について
タイトル
「マスカレードと世界観」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第224号
最終掲載
週刊チャオ第250号
連載期間
約6ヵ月2日