4-夢幻-1
「根強く耐える自分だけの宴」
―――
挑発とも取れる、一言を静かに。少しも動じず、放った。そいつの名前は"着生"。
現時点で、"緑化"が理解している現象は三つ。
「植物を生やす」「能力の分析ができる」
そして、「植物とその触れたものを接着する」といった点。
接着し、固定された状態でもう一人にやられることを恐れ、戦術は逃げ惑うの一点だった。
「Nice and easy. Do U understand?」
こいつは、投げたガラスを手から出てきた触手のような、木で振り落とした。
それが食い込むものならば、死は必至であった。
土を掻き分けて進むのなら、肉はどうだろう。土よりもまとまっているが、やわらかい。
しかし、ひとつだけ希望がある。ガラスを強引に体で破ることだ。
ケガするのとここで終わるのとどっちがいい、といった話。
だが、問題はいくつもある。
破るなら破るで、走る距離が必要。そして、上半身がはだけている今、ケガの心配がもっともあるということだ。
下手したら致命傷。簡単に追い詰められる可能性がある。
それに、風邪をひいたら後々大変であるからだ。外は豪雨と化している。誰かの"chao"だろうか。
すでに左腕が動かない。布も必要だと考えると、服を取りそれを盾にガラスを破るほか無い。
けれど、一角に几帳面においてある服までは遠い。どう考えても、追い詰められる。
いや、もう追い詰められてるも同然か。
逃げる兎は一匹しかいない。狩られるもの、狩るもの。
雷が落ちた。かなり大きい。辺りが一瞬、青白く光る。
どう考えてもここに落ちたものだった。運良く落ちるものか?きっと"chao"だ。
狙い撃ちにしているとすれば、外に出るのは危険。この島の建築物には避雷針がついている。
狙うとしたら道路にいる者だろう。直接当たったなら、最悪ひどい姿になっている。
あきらめて、戦うとしても勝機は無に等しい。
すでに、ガラスの亀裂に足をかけて通れるかどうか確かめている。外からは丸見えであったことを悔やみ、服の方へ壁伝いに歩く。
しかし、それを見逃すわけは無いだろう。
「Screw U!!」
サングラスの男が叫ぶと同時に、雷鳴が轟き、一度雷が落ちる。
緑化にではなく、外にいた人にだろう。確実に、誰かが狙っている。
雨だからと反射的に中に入ったのは正解だったのだろうか。この場合、失敗だろうか。
もともと、ついていなかったというべきなのだろうか。そんなことを考えてしまう、緑化の絶望的な状況は誰にも変えられなかった。
緑化はそこから逃げ出そうと、ガラスに足をかけ、逃げられるかどうかをチェックしている。
だが、"chao"で外にいるしかし、異変に気づく。
「なんだこの位置は!?」
緑化が叫んだのだが、声を出せていない。そう、壁伝いにガラスから離れていたはずなのだが、ガラスの前に来ていた。
自分の意思とは裏腹に、壁伝いに歩く。もちろん、服の方向へ。
「Screw U!!」
二度目の叫びだ。同じ発音。同じ言葉。なぜ二回もいうんだ?いつの間に戻っていたんだ?声が出せないのはなぜだ?
そして再び落雷が発生する。もう一度、あの場所へ。