3-着生-3

急いでガラスに花を咲かせ、完璧に咲いた頃には既にサングラスの男が近くに来ていた。
顔に向かってガラスをぶつけようと、大きく腕を振り上げる。
抜きながら横転し、花を首元から服の中に入れ、解く。だが、時間がかかってしまう。
振り向きざまにガラスを振り回してくるが、腕に当たり英国風の男寄りに倒れてしまう。
仰向きになり、後ろに見える英国風の男が笑う。
そう、体がまったく動かないのだ。
しばらくし、サングラスの男が服の中に入ったガラスを丁寧に取り出すと、それを投げつけようとする。
しかし、英国風の男が手を軽く前に出して止める。英国風の男はこの間まったく足を動かしていなかった。
「苦言を呈すようですが、あなたは現状から考えても勝てる見込みがありません。
我々に示しなさい。どうするかを」
この示しと言うのは、死ぬか生きるかの選択。
だが、生きるの場合には死ぬと同等の何かが与えられることは間違いない。
それか、道具にされる。死ぬ場合にはそれは説明はいらないだろう。
敵に与えた攻撃がこうやって裏切る瞬間であった。
しかし、そんなことは考えてはいない。この状況を打開し、二人を退けて勝利を選択する道を。
必死に体をよじらせると、動くようになった。何かが服に貼りついていたのか。それは分からない。
距離を取ると、英国風の男はじっと下を見ていることが分かった。どこを見ているのだろうか。
それは、あの小さな植物であった。
紛れも無く、男はあの上に倒れこみ、そして体が動かなくなった。
動かなくなったのはその植物に触れている部分のみであり、それ以外が動いたというのが奇跡。
既に、助かる助からないの状況ではない。ガラスの無い場所に来てしまった。いや、追い込まれた。
「"緑化"。物体に花を咲かせ、その中身を茎や花に移動させる。表面積の増加が伴われる」
英国風の男がそう良い、しばらくしてもう一言放つ。
「この状況下では勝ち目は無い能力です。あなたに私の"エアープラント"を植えました。
いや、剥がれたのが偶然ついた、が正論でしょうか」
背中を触ると、確かについている。服を脱ぐと、あの植物が根を生やしていたのだ。
引っ張るが、抜けない。そんなに強い根とも言えないのに、なぜか抜けない。
一応、服は必要だ。下着も着ていないし、何より雨が降っていて少し冷える。
服を置き、向きなおす。
「こんなもんで俺が殺せるってか。柔らかい束縛で縛れたら苦労しない」
サングラスの男は、"緑化"の男が言った一言の直後に笑い出す。
指の方向は、手。さっき抜こうとしていた手に、植物がついていたのだ。

「それで"chao"を使っているか分かるんですよ。不思議なことにね」
英国風の男はそういうと、指を指し攻撃の合図をした。
サングラスの男はガラスを一個、思いっきり投げつける。
鋭く飛んでくるガラスを左腕で受けたものの、刺さってしまうほどの傷を負う。
続いて向かってくるのを見て、横を通り抜ける。
そして、落ちている布を使って止血を試みる。
サングラスの男は図体は良いものの、俊敏性が無い。それを既に熟知していた。
しかし、そこでガラスに付いていた"エアープラント"に触ってしまったのだ。
付いてしまった足が固定され、"緑化"の男は危機。勝機が消えうせていった。
「ストップ」
英国風の男がサングラスの男の動きを止める。
「これで分かったでしょう?もう、逃げることはできないはずです」
自信が無さそうな言葉であったが、誰が見ても詰んでいる状況であった。
左腕が化膿する前に水に浸したい。化膿さえしないものの、菌が入り込むことがある。
いや、もう入り込んでいるのかもしれない。事態が事態だった。
神経を切ってはいないが、動かせるといった場合じゃない。
「"着生"。名前を覚えておいてください。もし、この状況から逃げられてしまったならば」

このページについて
掲載号
7.16 耐久の鬼誕生祭 in 週刊チャオ(226号)
ページ番号
9 / 40
この作品について
タイトル
「マスカレードと世界観」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第224号
最終掲載
週刊チャオ第250号
連載期間
約6ヵ月2日