3-着生-1

「植物は植物へ植物を」
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少し前。"緑化"を自覚し、男は路地に逃げ込む。
聖職者に会ってしまったことで、改めて痛みを知る。しかし、所詮は持ち込める程度の大きさの凶器。
しばらく休めば、簡単に痛みは引き、血も出なくなったのだ。
近くにあった布。密接していて、菌が入り込んでいない物を選った。
腹周りにそれを締め、気合を入れる。足元は多少ふらつくが、多少は大丈夫だ。
路地の先が行き止まりであった場合、もしくは入り組んでいる場合。抜けられなくなる場合だ。
その場合、死。負けを意味する。
道路には出ずに、路地の奥。まっすぐ進んだところ。垂直の位置。
そこに、一つの廃家。いや、店があった。
男が入ると、ほこりっぽい空気が辺りに舞う。
棚には工具などが並んでいる。下は普通に土が敷かれていて、そういった雰囲気を出している店なのだろう。
そこは一階で、長方形のフロアになっている。
入り口はその一角であり、その正反対の一角に階段が見える。
その階段までゆっくり移動し、二階に上る。
二階も同じ形になっているが、そこからは階段も何も無い。家具も何も無い。ここにも土。
ほこりのせいで窓にちょっとしたモザイクがかかるようになっている。
まるでマジックミラーのように。目の部分だけの土を払い、外を覗くことにした。
その直後、雨が降ってきた。ポツポツと、そして激しくなってくる。
外の慌しい様子が伺える。方向から行って少ししか見られないし、何より視界が悪い。
建物の隙間を縫うように覗き込むだけだ。
にわか雨だろうか。ここは安易な隠れ場所だろうか。心配をしているところに、ちゃんと戸を閉めておいたこの店に。
戸の開く音が響いた。

「Top of」
男は静かに階段の方へ歩いた。明らかに、誰かが入ってきている。休むどころではない。
「the "human"」
何かを呟いているのを男は聞き取る。入ってきた侵入者からすると、それはただの浮かれている様子。
楽観的な侵入者。気を配る男。
「ここには一人。気をつけてください」
先ほどの声とはまた違う声調。別の人。二人?
グループであるならば、楽観的な理由にも説明がつく。だとするならば、さっさと逃げなくてはいけない。
窓のところに駆け寄ると、そこには開けるための"部品"が無い。あの、留め具が。
つまりは、永遠に開くことの無い窓なのだ。ただ光だけを取り込み、何も出さない。そんな窓だった。
弱く叩いてみると、特に異常は無い。だが、それは逆に異常を意味する。
逃げることは出来ない。"強化"ガラス。ちょっとやそっとじゃ割れない。
ここには家具も無く、道具を取るためには下に行かなければならない。下には工具がたくさん並んでいる。
いくらでも割れる道具はあるのに、取りにいけない。
諦めを覚えた。が、そこで"緑化"を思い出す。
一筋の希望に賭ける。ガラスから花が生える。
「分かりました。二階です。どうやら、何かに向かって"chao"の能力を発現した恐れがあります。
注意してください。繰り返します。"chao"が放たれました」
怒鳴り声が聞こえる。牽制でもするつもりか?
花を抜き、緑化を解く。
花はガラスに変わっていき、土のクッションで音も衝撃も吸収される。
そして、花の生えていた場所を思いっきり殴る。予想通り、穴が開く。
強化とはいえ、所詮はガラス。
自分に"chao"を試して、分かったことがある。脳に行き届いた能力の詳細をも照らし合わせ、大体は把握してある。
「中身を削り取る能力」。全ては花に。全ては茎に。
これで、すれすれまで削り取ることが出来た。ので、穴が開いたのだ。
穴を開ける際、巻いていた布をガラスに被せる。これで、ケガをすることもなく。音も少なく割ることが出来るのだ。
だがしかし、遅かった。穴はそんなに大きく開かない。下を覗きこむにも、あまりにも小さすぎる。
「Let it be to me according to your word」
こっちを見る、二つの影。見つかった。

このページについて
掲載号
7.16 耐久の鬼誕生祭 in 週刊チャオ(226号)
ページ番号
7 / 40
この作品について
タイトル
「マスカレードと世界観」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第224号
最終掲載
週刊チャオ第250号
連載期間
約6ヵ月2日