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その瞬間また消える。
「どこだ!」
俺の叫び声が掻き消されている。残念だが、これが近くにいることの証明だ。
「分かってるんだ!」
ここで妙なこと。今度は声が出た。
だが、近くにいることは間違いない。いつも音を消しているわけではないのだろう。
ホテル前で対峙した時だってそうだ。アイツは声を出していた。
能力は一時的。音を消さない事だって出来る。
建物の敷地には砂利があったが、その上を走っても音を出さなかったのはそういった理由だろう。
反対に、石を投げられて倒れこむ俺。その時に声を出したが、それは普通に出せていた。
音を掻き消す力には範囲がある。だから能力として成り立っている。
姿を消している。ホテルマンに向かって思いっきり飛び乗る。
「そこだああああああ!!」
重さも硬さも無いはずの草に乗り上げ、空中で止まる。そこにいる。
姿を消せても、そこにいるんだから仕方が無い。カメレオンのように、同化すると考えて良い。
勢い良く拳を乱打する。確かにそこにいる、そいつを狙って。
しばらくして、姿を現した。殴っていたのは顔らしく、血が出ていることを確認。
歯には当たらなかった。手から血が出ていないことから。
だが、ホテルマンは立ち上がる。顔はダメージがほとんど無かった。腹か頭を狙うのが一番だ。
「"フェアリーテイル"…。姿や音を掻き消す力。
妖精のように…そして、カメレオンのような…魅力があり、それでいて影を薄くできる。それが魅力」
そういうと、建物の方に走っていく。トドメを刺すためにも、俺は後を追いかける。
門の右側。大きな石があるはずだ。
門まで思いっきり近づいて、一歩下がる。予想通り、そこには大きな石が落ちてきた。
それを確認し、勢い良く門の向こう側に走り、ホテルマンを確認する。
姿を消している。が、大きな石やホテルマンは門の右。足元に生えている草を何本か抜き取り、息で吹く。
草が引っかかる箇所。草は下に落ちていき、少し前の草の陰。
そこで浮いた。
それを察知したのか、ホテルマンは姿を現す。場所が分かっているから、思いっきり膝を入れた。
だが、ホテルマンは服の中に大きな石を隠していた。
俺の手は良い音を立て、痛みが襲う。
「そこだ。"フェアリーテイル"を完璧に把握していなかったからだ」
ホテルマンはそういうと、草の陰に手を伸ばしてナイフを取り出す。
「"妖精"が身に付けているものは妖精そのものの魅力により、気が入らない。
それが"フェアリーテイル"。普通に持てば宙に浮いて見えるが、こうすれば一緒に掻き消せる」
ナイフの刃を折り、手に突き刺す。それを見て俺は距離を取る。
だが、逃げ惑う俺の左足にナイフの刃を突き刺し、すぐに引き抜く。
倒れながら振り向き、ホテルマンを探す。
だが、奴はいない。姿を消している。
ピンチの場合、冷静にはなれないものだ。血が浮いている。
そこをナイフのある場所として、頭であると思われる場所に向かって蹴りを入れる。すると、姿を現す。
「散るのは相手を見ながらでいい。魅力は、力に負けてしまったのだから」
直後、二発目の蹴りを入れると動きが止まった。
ナイフを手から引き抜き、ホテルマンの手首を切り裂く。
勢い良く血が噴き出て、不思議なことにホテルマンは頭から砂になっていった。
大の字になり、空を見る。
太陽が建物を照らし出した。数分間の勝負。
そして、何故か眠気が襲った。夢の中で寝るのも変だが、そうしないと体が持たない。
相当疲れたのだろう。止血するように、ズボンをナイフの刃で少し切り、左足の患部を巻き上げる。
それから草の陰に移動して、死ぬように眠った。