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早口で正確に伝えた。
ホテルマンは既に俺の位置を確認し、蹴りにかかろうとしていたまさにその時であった。
思わず動きを止め、走って距離を取った。
下に落ちている小さな砂利を拾い上げ、こっちに向かって投げる。
だが、動きとは裏腹に砂利は建物側に吹っ飛ぶ。
安心し、ホテルマンの方を向くとホテルマンは消えていた。
音をかき消すだけではこの現象は起きない。まだ、手があった。
「姿をも掻き消すっ!?」
思いっきり叫んだその声は、今度はちゃんと口から出せていた。
立ち上がり、痛みを我慢して門から出る。
道路の中心にある、小さな茂みに倒れこむようにして伏せる。
しばらくすると、ホテルマンが歩いて出てきた。
そして、また姿を消すのだ。
その異様な有様に驚きながらも、なんとか戦えるようにと立ち上がり、太陽の差す方へと向かおうとする。
そうすると、ホテルマンは姿を現し、こちらに向かって走ってくるのだ。
姿を消しながら行動するのはダメなのか?
石を投げたこともそうだ。最初の一撃であっても、小さな石をわざわざ選び、不意打ちを狙った。
すぐに消えた後、石は浮かんでいた。いや、普通には浮かんでいない。空中に固定されていた!
ホテルマンの姿を消す方の力は、何か制限がある。
わざわざ姿を現し、蹴りにかかったこと。大きな石でなく小さな石で、しかも狙いが外れてしまっていたこと。
後者は焦ってしまっていたのだ。あの状況では、あちらの方が優位に感じたのだが。
早めに来てしまったせいか、その石が近くにあったせいか。
あの場所には大きな石がある。力が無かった?とんでもない。
何とか、振り下ろせるまでの大きさではあったはずだ。石が飛んできたのも、投げたと解釈するならばあまり重くはないとなる。
そこで、その姿を掻き消す力の制限に対する結論が導き出された。
"姿を消している間は動けない!"

そのことに気付き、振り向く。
ホテルマンに能力を暴いた可能性のあることをバレさせないように。
「うおおおおお!!」
いかにも切羽詰ったように、殴りかかる。当然、ホテルマンは振り向いた瞬間。いや、減速した瞬間に姿を消していただろう。
既に見えなくなっていたのだが、実は俺には見えている。
鏡だ。太陽に照らされ始めている、あの建物と反対側に位置するショップの鏡で姿を確認している。
場所を確認している状態で、殴りかかる。
危機を察知して姿を現した時にはもう遅い。
走りながら体重を加えた拳は、ホテルマンの腹に思いっきり入った。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第221号
ページ番号
4 / 9
この作品について
タイトル
「マリオネット」
作者
Sachet.A
初回掲載
週刊チャオ第221号