特別「マイ珍」外伝 ページ2
つれてこられた部屋には、鉄格子によって分けられた小部屋がいくつかあった。
そのなかの一つに、女の子が入っているようだ。
「お前の任務というのは、あそこに入っている小娘から
手に持っている卵を奪う事なのじゃ。
あやつは結構頑固でな。なかなか渡してくれんのじゃよ」
監視モニターを見ると、確かにその少女は腕に大きな卵を抱えている。
「じゃ、後は任せたぞ」
エッグマンはそう言って部屋から出て行った。
ドアが閉まるのと同時に、私はその少女が入っている鉄格子へと向かった。
一歩、二歩と慣れない体で前進する。
少女が入っている格子の、一つとなりの格子の前を歩いていた、その時。
歌が聞こえてきた。
高く、渇きのない綺麗な声で歌う少女。
私はいつしか、その歌声に聞きほれていたようだ。が、
「誰かそこにいるの?」
気付かれた。私は彼女の目の前へ出てきた。
「あなたも、あのおじさんの仲間?」
「オジサン、トハ、Dr,エッグマン、ノ、コトデ、スカ?」
「ふーん、あのおじさん、エッグマンっていうのね。あなたはなんていうの?」
「ワタシ、ハ、E−110、Σ・・・」
「じゃ、シグマでいいわよね。よろしく!」
「ヨロシク、オネガイ、シマ・・・」
と、ここまで言いかけたところで、私はすっかり彼女のペースに乗せられている事に気付いた。
「・・・タマゴ、ヨコセ」
「あら、やっぱりあのおじさんの仲間だったのね。ダメよ。卵は絶対に渡さないわ」
エッグマンの言ったとおり、確かに頑固なようだ。
「タマゴ、奪ウ、ワタシノ、任務・・・」
「あなたは任務ならなんでもするのね」
「マスター、ノ、命令、ハ、絶対」
「命令だけ聞いてればいいなんてとっても楽な人生よね」
・・・何が言いたいんだ。
「タマゴ、奪ウ、力ズク」
私は格子を開け、タマゴを無理やり奪い取ろうとした。
が、彼女は、それを待っていたかのように、部屋から飛び出した。
「ふーん、鈍いのねシグマって。こんなに簡単に逃げられるなんて」
しまった。どうやらだまされたようだ。
私は急いで後を追いかけることにした。
「・・・モードチェンジ」
私は自分の体を、スピード仕様に変形させた。
するとみるみるうちに彼女の真後ろまで迫っていった。
「ええっ、聞いてないわよ、そんなの~!」
あたりまえだ。話してないのだから。
などと言ってるうちに、彼女を甲板の端へ追い詰めた。
ここまできてようやく気付いたが、どうやらここは船か何かの上のようで、周りには海以外何も見えなかった。
「・・・タマゴ、奪ウ、力ズク」
私が前進すると、彼女は後ろへ向かって後退する。
そして、彼女が甲板の柵に手をかけた、そのときだ。
柵は突然外れて、海へ落ちていった。
それと同時に、彼女の体も海へ放り出された。
「きゃあああああああああ!!」
まあ問題ないだろう。
彼女が沈んでから卵だけ回収すればいいのだ。
そんな考えが一瞬頭をよぎらせた。
―――しかし、それでいいのか?
前の私だったら、どうした?助けただろうか?ん?前の私?―――
迷っている暇はなかった。気付けば私は、彼女の腕をつかんでいた。
「・・・シグマ・・・?」
甲板へ上がった彼女は、私に向かって問いかけてきた。
「どうして助けてくれたの・・・?」
少々照れくさかった。私は、照れくささを隠すようにこう言った。
「タマゴガ、ワレテシマッテハ、コマル」
彼女はくすり、と笑って言った。
「照れてるのがバレバレよ。ロボットなのに、心があるのね」
今度は、私の耳元まで近付いてきて、こうささやいた。
「ありがとう・・・」
何も言えなかった。言葉が出なかった。
~おしまい~