16-2

「なんで!!」
「“Blast wind”!」
放たれた爆風が、船を押し返す。
岩にしがみつくだけで精一杯だった優輝は、船に戻ろうとして失敗した。
乙姫の叫び声が、かすかに聞こえた。
「誰です、彼は」
「俺から教えてやろう。そいつの父親だ」
みれば、どこか優輝の面影があった。
「父親がメシア=フォースの…?」
「さて、戦闘に関して、実の父が評価してやる」
ぶん、とすばやく、崩れた岩の上を渡った敬三が、優輝に向けて右手を定めた。
「“Blast wind”!」
「“Full winding”!」
爆風と風圧の激突。
それらは突風となって渦をなし、岩をさらに砕いていった。
「何もしなければ、死ぬだけだ、江口優輝!」
「“ディフォーム・コントラクティ”!!」
驚きに目を見開いた、ナイトとスカイ。
それらの“保存機(コンサーヴァス)”が、優輝の両手に吸収されていく。
片方は白い、篭手。片方は黒い、篭手。
そして、それらから突き出る巨大な爪。
長すぎる鎖が二つの爪を繋ぎ、優輝はその爪を岩に突き刺した。
「腕を覆いかぶさるかのような篭手爪……黒と白、両極端を表す“ディフォーム・コントラクティ”…なるほど、やつと同じか!」
「らあああっ!!」
優輝が叫び、右手の爪を敬三に向けた。
それと同時に、爪は敬三を突き刺す勢いで伸びる。
何とか避けた敬三は、一気に右手を振りかぶって、
「“Blast wind”!」
同じく、優輝はナイトとスカイを鎖で抱えると、岩に突き刺さっていた左手の爪を外した。
爆風は、優輝のいた場所に放たれ、一瞬で優輝は反対方向へと移動する。
右手の爪に突き刺さった岩へ、縮む事で向かったのだ。
「さすがは我が息子だ—“Blast wind”!」
「「“Blast wind”!」」
ナイトとスカイが、敬三に対応するかのように唱える。
三つの爆風は、優輝が叫んだ言葉と共に、吸い込まれた。
「“魔力吸収”!」
優輝の両方の爪に、呪力が集中する。
顔を苦く歪めた敬三が、逃げようとするが、間に合わない。
「“Blast wind”!!」
その爆風は、城ごと粉々に吹き飛ばした。
同時に、優輝とナイト、そしてスカイ。その三人をも、別々に吹き飛ばした。
「最後に、教えておいてやろう、息子」
敬三の声が聞こえた。
「“クロス・コントラクティ”は、契約が解き放たれたとき—両者は、死に至る」


どれだけ眠っていただろうか。
長く眠っていた気もする。短かった気もする。
父親がメシア=フォースの一員だったこと。王妃を助けたこと。“ディフォーム・コントラクティ”が成功したこと。
全てが頭の中に入って、全てが頭の中から出て行った。
ばっと、優輝は飛び起きた。
辺りを見回す。見たことの無い場所だった。
一瞬、あの場所を思い浮かべた。
聖域。
だが、なんとなく感覚が違う。
その家は珍しくも木製で、丸太を積み上げて出来たような家だ。
ただし、人間の手が加えられている。
自分はベッドの上に寝転がっていたらしい。みると、あの時の服装のままだ。
こんこん、とドアがノックされる。
この部屋の唯一のドア。
「はい?」
「あ、起きた?」
青色の髪の毛の少女が、入ってきた。
それなりに整った顔立ちをしている。人間界でいう、普通の女の子、というやつだろう。
だが、髪の毛が青い。しかも、腰辺りまで届きそうなロング。
髪の毛のせいだろうか、どことなく乙姫に似ている。
「ええと」
「びっくりしちゃった。散歩に出かけてたら、空から人が降って来るんだもん」
よくみれば、体中のいたるところに包帯が巻いてある。
そうか、あの高さから落ちたからかもしれない。
「ありがとう」
「どういたしまして。それで、あなたどこから来たの? 何者?」
わくわくとした雰囲気で、少女は訊ねた。
「中央魔法国…じゃなくて、セントリーナスから来たんだ」
「へえ」
注意深く少女を見てみると、あらゆる特徴が分かる。
服装は緑のワンピース。幼い感じがする。
目の色は深い青。髪の毛と合わさって映えていた。
「江口優輝だよ。それで、ここは?」
「エレクシア。セントリーナスから海を越えて南東の大陸よ」
「海を、越えて?」
と言う事は、自分はどうやってセントリーナスからここまで来たのだろうか。
空から落ちてくるにしても、海に落ちずに隣の大陸まで吹き飛んだのか。
「最初見たときは、ほんとにすごい怪我だったんだからね」
「あ、ごめん…ところで、ここからセントリーナスへはどうやって帰ったらいいんだろう?」
「セントリーナスまで? んーとねえ、」
海を渡って、東セントリーナスに行って、大体十日くらいかかるかな、と少女は言った。
それほど遠いのだろうか…。
だとしたら、自分はどうやって帰れば良いのだろう。
「お金がかかるからね。たぶん、稼がないと」
「…そういえば、俺と一緒にチャオが落ちてこなかった? こう、頭の上が光ってるチャオと目が怖いチャオ」
「みてないなあ。あ、ここあたしが作った場所だから、好きに使っていいよ」
おかしい。
いや、あの衝撃で全員ばらばらの場所に…?
だとすれば、ナイトやスカイは、海に落ちている可能性もある。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第332号
ページ番号
50 / 51
この作品について
タイトル
魔法のサンクチュアリ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第286号
最終掲載
週刊チャオ第332号
連載期間
約10ヵ月26日