16-3

しかし…自分はまだ生きている。と言う事は、あいつらも生きているのだろう。
親父の言葉を信じるなら、そうなる。
「お世話になるのも悪いから、いいよ。俺は、これから住むところ探してみるし」
「住むところなんてないよ。あなた、無一文でしょ?」
うっ、と優輝は言葉につまった。
確かに無一文である。
だが、「終焉のウォーデン」という名前を出せばなんとかなるのではないか、と優輝は思う。
「上等魔法官とか、いないかな?」
「ここは圧政されてるし、いたとしても会えないよ」
「圧政?」
「うん。あたしの親は領主だから問題ないけど、一般市民が魔法官にお目通り願うには難しいと思う」
なんて事だ。
「この国は王制を採ってるから」
「王制ね」
いろいろな街があるんだなあ、と優輝は思った。
しかし、ここで引き下がるわけにはいかない。
「何とかして帰れる方法とか、ないかな?」
「うーん……列車を乗っ取るとか」
「列車?」
「海底列車! 何にも知らないの?」
ごめん、と優輝は謝った。
最も、人間界から来たのだから何もしらないのは当然である。
「ま、まあ、謝らなくてもいいよ」
「それで、海底列車ってのは、どこで乗れるの?」
「ここはエレクシアの中央あたりだから、セントリーナスに行くなら西にまっすぐ」
ありがとう、行ってみると言おうとした優輝は、体が全然動かない事を自覚した。
あれ、と思って動かそうとしてみる。
ところが、痛みが奔るだけで、全く動かない。
「怪我酷いって、言ったでしょ」
「こんなに酷いとは……」
「何かあったら呼んで。あたし、ご飯つくったげる」
とことことドアの向こうに消え去った。
それにしても……。
ここは地図でいえばどこらへんで、どんな形をしているのだろう。
海底列車を乗っ取る。はっきりいって不可能だ。
それに犯罪だ。
どうすれば良いのだろうか…こればかりは、まったく見当がつかない。
どうにかするにも、方法がそもそも無いしなあ、と優輝は溜息をついた。


優輝がいなくなってから、すでに一週間が経とうとしていた。
ガーランドから帰国した乙姫、その夜。
乙姫はチャオガーデンに来ていた。
ナイト=ノクターン、スカイ=クラウディア、消息不明。
江口優輝も、消息不明。
意地でも止めて置けば、と乙姫は後悔した。
「あの、大丈夫ですか?」
淡い赤色の髪の毛をした、セントリーナス王妃が訊ねる。
いつの間にか背後にいたのであった。
「そうね、平気よ」
「すみません……わたくしのせいで…」
「あなたのせいじゃないわ」
しょんぼりと、王妃はうつむく。
乙姫はチャオガーデンを見渡して、うなずいた。
きっと、帰ってくる。
だから、待つ。
「あの、八島さん」
「ごめんなさい。ちょっと一人になりたいの」
「いえ、あれはなんでしょうか?」
チャオガーデンの暗い空を指差す。
見上げた乙姫は、そこに巨大すぎる船があることに驚いた。
「プリンセス=ウィッチ」
百夜のオメテオトル、工藤の声であった。
「やつを探しに行くのだろう? わざわざヴィクトリー号を拝借して来てやった」
「あー、ちくしょう! どうやって動かすんだよ、これ!」
「さあ、早く乗りたまえ」
驚きに目を見開いた乙姫は、一瞬ためらってから、にやりと笑った。
そうだ。待つのではなく、迎えに行けば良い。
彼だったら、そうするだろう。
「あの! わたくしも連れて行ってくださいませんか?」
王妃が訊ねる。
「あなたは、待ってなさい」
首を横に振った乙姫は、そして、唱える。
風が船まで運ぶ。
その風は、再び脈動を始めた。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第332号
ページ番号
51 / 51
この作品について
タイトル
魔法のサンクチュアリ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第286号
最終掲載
週刊チャオ第332号
連載期間
約10ヵ月26日