15-2

ノックを二回。
魔力演習場、とプレートに書かれた部屋のドアに。
中からどうぞ、と声がした。
その声はおっとりとしていて、若々しかった。
ドアを開ける。
「あら、いらっしゃい。一碧と、お友達?」
「うん。江口優輝くんと、契約者の…ナイトくんとスカイくん」
「お久しぶりです」
「あらぁ、この子がセカンドミリオンなの? それに、ナイトくんも、大きくなって。スカイくんはお元気?」
「ま、まあ、元気だが……」
まるで近所のおばさんみたいであった。
しかし、このおばさんは「おばさん」と呼ぶほど老いていない。
若い。
随分。
「お母さん、用事ってなに?」
「あ、そうそう、あなた契約してないんだって? だめよ、ちゃんとしておかなくちゃ」
「もー、お母さんに言われなくても考えてるよー」
「はいはい。ところで優輝くん」
「はい?」
美人な母親だなあ、と優輝は思って返事をする。
この親あってのこの娘か、と妙に納得した。
「“クロス・コントラクティ”の力を引き出す方法、知ってる?」
「い、いえ、知りません」
顔を近づけて言われたので、優輝は驚いた。
「“ディフォーム・コントラクティ”ですね。しかし、あれは—」
「そう、あれは契約者の間で信頼感が無いと出来ない。でも、あなたになら出来るでしょう?」
優輝を見つめて、みどりは言った。
その娘は、わけが分からずに首をかしげている。
「教えてあげます。“ディフォーム・コントラクティ”」
「本当ですか!?」
強くなれるなら、と優輝は意気込んだ。
「やり方は簡単。唱えてから、彼らのポヨを取り込むだけ」
「ぽよ?」
「そう、ポヨ。“保存機(コンサーヴァス)”の事よ。ポヨポヨしてるからポヨ」
「はあ……」
何がなんだか分からずに優輝は頷き、両手の拳を握り締めた。
「“ディフォーム・コントラクティ”!」



「で、できねえ……」
あれから何分か経った後、優輝は突っ伏していた。
一碧は眠たそうにあくびをして、にこにこと優輝をみている。
「思った通りです。優輝と僕たちでは、致命的な差異があります」
「人間界と魔法界、か」
スカイが答えを言って、ナイトはうなずいた。
「元々つながりの無かった鎖です。それを変形するには、時間を要します」
「あらあら、でも、彼はやる気みたいよ?」
こうなったら意地でもやってやると、優輝はもう一度拳を握り締める。
「“ディフォームゥウ・コントラクティ”!!」
奔る沈黙。そして静寂。
「ではこうしましょう」
沈黙を破ったナイトが提案した。
「みどりが優輝と手合わせを。特訓もかねますし、なおかつ“ディフォーム・コントラクティ”の練習にもなります」
「おっけー、分かったわ」
「ええ!?」
驚いた優輝は、みどりの本気の目に萎縮した。
ちなみに、一碧はすでに寝てしまっていた。



「…なにやってるの?」
乙姫が戻って来たときには、みどりと優輝の戦闘中であった。
「どうやってここが分かったんだ?」
「みどりの居場所を聞いたから、ここだろうなと思ったのよ。で、なにしてるのかしら?」
「みれば分かるでしょう」
と、ナイトは優輝を指して、
「特訓です」
みれば、優輝はところどころで立ち止まって“ディフォーム・コントラクティ”と叫んでいるが一向に成功する気配は無い。
それどころか、みどりの「風雲」魔力によって、優輝は追い詰められていた。
「“Full winding”!」
「“結界”!」
「“Amass full winding”!」
放たれた風は容易に結界を破ると、優輝の周囲を旋回しだす。
「死にたくなければ、成功なさい」
「そんな無茶なああああああああ」
優輝が叫んで、みどりが何だか呟いた。
風が高い天井へと飛び跳ねて、集結する。それらはさらに勢いをつけて、真上から優輝を狙い定めた。
「“ディフォーム・コントラクティ”!!」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第330号
ページ番号
47 / 51
この作品について
タイトル
魔法のサンクチュアリ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第286号
最終掲載
週刊チャオ第332号
連載期間
約10ヵ月26日