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「いーい? 相手は拘束するか、呪力を奪うこと。出来る限り接近戦は避けなさい。Aグループは相手の最前線を崩して。私がサポートするから。BとCは後援、Dは遠回りで奇襲よ」
サウスオブガーランド、その大平原の一端に、彼らはいた。
正義軍の通称を持つ彼らは、少女を筆頭に、敵に向かって駆け出す。
打倒、メシア=フォース。
その旗を掲げて。



 魔法のサンクチュアリ 15 -ディフォーム・コントラクティ-



新たな殿の下で、正義軍は善戦していた。
後ほど「最後の戦い」と称されるその戦争を、横から見る姿が一つ。
それは少女が飛行船で出会ったチャオであった。
どうやら、少女は問題なく戦闘を行っているようである。しかし……。
まだ幼い少女だ。
「大丈夫でしょうか……」


呪文(じゅぶん)が唱えられる。
魔力が飛び交う。
少女は初めて、ここが戦争の場所なのだと理解した。
だが、自分が止めなくてはならない。
様々な人を不幸に貶める、戦争を。
「“Amass full wind”!!」
その小さな両手に大気中から風が集う。
メシア=フォースの魔力は次々と、その風によって薙ぎ倒されていく。
彼女の言葉の通り、誰一人として死ぬことなく、メシア=フォースは勢力を失っていった。
「まさに、暗黒の女神だな……」
拘束された一部の人間がそう呟いた。
あっという間にメシア=フォースの全軍は滅んだ。
誰一人犠牲を出さずに、正義軍は勝利した。
敵味方両方に呼ばれた「暗黒の女神」の名から、“破壊神ダーク=カーリー”と呼ばれて。
少女は勝利した。



「……総時間、一時間二十八分、過去に最大勢力を誇っていたメシア=フォースは滅びました」
「今のメシア=フォースはその残党だ」
話の半分くらいから頭が絡まってきた優輝であったが、とりあえず、
「乙姫がすごいってことは分かったよ」
そういったところで、飛行船の速度が落ちてきた。
慌てて下を見ると、大きな街—いや、城を中心とした国が広がっている。
みれば、太陽…こちらでいう月は、真上の方向に昇っていた。
「そろそろ降りる準備しときなさい」
乙姫が言う。
大国ガーランド……。
その壮大さに、優輝は圧倒された。
驚いて声にも出せないくらいに。



「うっわあああああああああ」
飛行船を降りた一行は、竜胆の案内の下で、街を歩いていた。
作りは中央魔法国に似ているが、規模が違う。
「田舎者に見られるわよ」
「人間界は田舎なのでしょうかね」
「いや、俺が住んでたところはあんまり田舎じゃなかったけど」
「人間界、また行きたいなあ」
「とりあえず進まないか?」
適当に話している内、歩が止まっていたらしく、スカイに指摘された。
「どこに向かってるんだ?」
歩きながら、優輝が誰ともなく訊ねる。
「城よ。国王に謁見して、私はその後会議に出席するわ。あなたは観光でもしてて」
「ふむ、優輝の通称か……実に楽しみだな」
スカイが言って、竜胆がくすりと笑った。
難なく彼らは城にたどり着いた。



「おお、プリンセス=ウィッチ。やっと到着したか。知らせてくれれば使いをよこしたものを」
城に入ってから、迎えられた言葉はそれだった。
「おじさま、私が少人数主義なの、わかってるでしょ」
「はっはっは! なぁに、それで、そこの少年がセカンドミリオンかね?」
白髪は冠に隠れて見えないが、みたところ好感のもてる老人だった。
白いひげはどことなく安心感をかもし出していた。
「あ、はい。江口優輝です」
「ふむ。私はガーランド三世だ。数々の活躍、この耳にて聞いておる」
「ありがとうございます」
横目で見ると、竜胆は困ったように笑っていた。
ナイトとスカイ、そして乙姫は、いつもよりも頬が緩んでいるような感じがする。
「では、みな待っている事だ。会議に行こうではないか」
「ええ。それじゃあ、優輝、また後で」
「うん」
国王と乙姫の後姿を見送りながら、優輝は感心していた。
王様かあ、と。
何せ、故郷では王と会う…なんて事は滅多に出来ない。そもそも、いない。
「江口くん」
竜胆に笑顔で呼ばれ、優輝は振り向いた。
「ん?」
「これからお母さんのとこに行くんだけど、一緒に行かない? …だめかな?」
「いいよ」
頷いて優輝は答える。ナイトとスカイをみると、やはり母親に興味があるように見えた。
“深緑の魔導師”竜胆みどり。
どのような人物なのか……。
「じゃあ、行こ」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第330号
ページ番号
46 / 51
この作品について
タイトル
魔法のサンクチュアリ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第286号
最終掲載
週刊チャオ第332号
連載期間
約10ヵ月26日