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その—どうやら男らしい—人間は、少女に近寄ると、優しい声で訊ねた。
「八島乙姫、だな?」
「そ、そうです」
「小国の魔法国から、戦争を止めるために来た、そうだな? それゆえに戦争の光景を見て逃げ去ってきた」
「違います! わ、私は、逃げてなんか」
「戦う意志は?」
まるで何もかも分かっているような口調であった。
その男を不思議そうに見つめたチャオは、目を逸らして少女を見る。
「あります」
「だそうだ。というわけだから、ナイト、こいつを王のところまで連れてってやってくれ」
「それは構いませんが……正直、このような少女を—」
「心配するなって」
その少女の頭をなでながら、男は言った。
「こいつは、十分戦えるよ。きっと、世界で一番強くなる」
「…分かりました。あなたはこれから?」
「いや、戦争には行かないよ。俺の仕事は別にある」
そう言い残して、少女を振り向きもせずに去って行った。
誰だろう、と少女は首を傾げたが、構わずチャオに向き直る。
「確認しておきますが、本当に戦争をしに行くんですね?」
「…そうよ。私が戦争を止めるの」
「伺いましょう。王の元に」


謁見の間にて。
全身に包帯を巻いた王らしき人物が、少女と向かい合っていた。
明らかに体格差があった。
王の方が、傍目からみれば強そうに見えるだろう。
「本当に、君が戦争に行くんだね?」
「はい。私が行くんです」
「分かった。手配するが、君の腕前を見せてもらいたい。今の反乱軍の動向は?」
王が隣の女性と二言三言会話しているうちに、少女はチャオに尋ねた。
「反乱軍って?」
「大国ガーランドは一枚岩ではありませんからね。向こう、メシア=フォースが正しいと与するものも少なくありません」
「悪い人たち?」
「僕たちからみれば、悪となります」
「分かった。反乱軍を試しに止めてみせよ」
王が言うと、少女は元気よく返事をした。
チャオと少女が謁見の間を後にした後、ここから西に進んだところで反乱軍がこちらへ向かっているというチャオの話から、少女は推測した。
「空から奇襲を仕掛ければ簡単に倒せるわね」
「どうやってですか? 飛行船は目立つから使えませんし、空を飛ぶ魔力など…」
「何言ってるの? ここから、山に向かって撃てば、簡単でしょ」
限りない草原と山。
そちらの方向めがけて、少女は呪文を唱え始めた。
大いなる風の魔力。
魔力の強さと言うものは、呪文(じゅぶん)の長さに正比例する。
その呪文はあまりにも長すぎた。
胸にぶら下げた紫水晶が輝く。
風がうなりを上げ、少女の右手から放たれた。
反乱軍は不意打ちを食らって、行く場所を失くした。
山が崩れたためだけに。



翌日、少女の通称が決定され、めでたく戦争の第一線で戦闘を行えるようになった。
いわく、“紫水晶の殺戮天使”。
愛嬌を込めて決定されたこの通称だが、当人には不評だったという。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第330号
ページ番号
45 / 51
この作品について
タイトル
魔法のサンクチュアリ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第286号
最終掲載
週刊チャオ第332号
連載期間
約10ヵ月26日