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「ガーランドは広いからな」
「行った事あるのか」
「戦争時に、しばらく」
「戦争?」
どこかの火の匂いが風に乗ってやってきた。
「統一戦争ですよ。メシア=フォースはその敗者が集まって結成された悪です。当然ですね。絶対王権制度をうたった奴らでしたから」
「戦争かあ……」
「戦争で一番活躍した人間、誰だか分かるか?」
スカイの質問に、優輝は少しだけ考えた。
「乙姫」
「正解だ。彼女は五歳にして大抵の人間に打ち勝つ事が出来た。さらに言えば、メシア=フォース大半の呪力を奪って戦闘不可能にしたのも彼女だ」
「加えて、彼女のすばらしい点は一人として人を殺さなかった事ですね。呪力を奪うか、拘束するか、どちらかでした」
「へえ……やっぱりすごいんだなあ……」
「彼女の持つ紫水晶と、生まれ持った才能だな」
「紫水晶、ね」
胸にぶら下がったペンダントを見ながら優輝は言う。
これも確か、紫水晶だったはずだ。
「当時の通称は、眼光一秒千人壊滅を謳い文句とした“紫水晶の殺戮天使”ですからね」
「殺戮天使て……残酷だな」
「それほど強かったという事だ」
「良ければお話しますよ。戦争時のお話を」
優輝はしばらく考えた後、乙姫の方を向いてから、頷いた。
「聞かせてくれ」
「一部始終ですが。では、どこから始めましょうかね」
十一年前、それは始まったという。



魔法界。…人間界から少し位相のずれた、別世界。
世界には様々な国々が散り散りになっていた。
次第に国は一つになって行ったが、当時最強を誇っていた大国セントリーナスから南西に位置する、大きな国。
通称、メシア。
そこでは鎖国を行っており、また、人間界を侵略して奴隷とさせようと考えていた。
呪力の悪用。
それを許すまじと考えたセントリーナスの王は、使いを国にやった。
その使いは帰ってこなかった。
戦争の発端はそれだった。
世界は二つに分断された。
人間界を侵略し、絶対王権制度をもってして彼らを奴隷とする国。
それを許さない国。
前者の国々は、大勢だった。すさまじい能力で、後者の国々を圧倒し続けた。
強力な悪の軍団。メシア=フォース。
何よりも豊富な呪力を持っていた。
イーストセントリーナスの大戦では、たった千人の相手に五万人で挑んだが、敗北を期した。
その、悪を許さない国々は、次第に勢力を失っていった。


国々の中の、小さな国。
魔法国。
そこでは魔法といった法が作られ、平和な生活を送っていた。
この国も戦争に巻き込まれていた。
ゆえに、優秀な魔導師はほとんどが戦争に送られていた。
しかし、優秀な魔導師の中にも、戦争に行かない一人の男がいた。
八島一。
彼は絶対悪を許さない、正義感の強い人間だった。
「さあ、教科書の三○ページを開いて」
「先生は、何で戦争に行かないんですか?」
生徒にそう訊ねられても、彼は首を横に振るだけだった。


戦争を終焉に導く物語は、ここから始まる。


小さな国の中に、一人の優秀な少女がいた。
世間では、その少女は笑わない少女として有名であった。
何を考えているか分からない。
無愛想な少女だと。
そんな少女だが、父親と一緒にいるときだけは笑った。
「お父さん、今日私ね、また新しい魔力を覚えたのよ!」
「そうかそうか。すごいな、さすが俺の子だ」
「えへへ」
なでられて嬉しそうに笑う。
名前を八島乙姫といった。
ある日、その少女は戦争の噂を聞きつけて、苛立ちをおぼえた。
まだ喧嘩している。
いい加減にして欲しかった。
大切にしまっていた紫水晶を手に取ると、少女は戦争に向かう船に乗り込んだ。


戦争。
後に大草原の大戦と称されるその戦争は、悪を許さない軍、通称正義軍の完敗だった。
次々と死に行く人々を見て、少女は深く傷ついた。
誰にも見付からない倉庫で、静かに身を潜めていた。
自分が酷くちっぽけに感じた。
そんな時だった。
「何をしているのですか?」
黒いチャオだった。
「か、隠れてるのよ」
「戦争中ですよ。あなたのような小さな少女がいる場所ではありません」
「分かってるわよ」
「もうじき、この船も破壊されます。僕が飛ばしますから、あなたの住む場所を仰っ—」
すると、突然少女は泣き出した。
恐らく、戦争の酷さに耐えかねたのだろう。
どうすればいいか分からず、そのチャオは目を逸らした。
「とりあえず、僕の母国へと向かいましょう」


大国、ガーランド。
小国である魔法国とは格が違った。
「わああ、すごい大きい国ね」
「あまり大声を出さないように。見付かると大変です。信頼できる友人がいるので、そこまで行きます」
チャオが壁に隠れるようにして、そそくさと移動する。
その後を、少女が慌しく追っていた。
「きゃっ」
少女が大男にぶつかる。大男は少女に殴りかかろうとしたが、その手は別の人間に止められた。
フードを深く被った御者のようだった。
全身を覆った布はすでにぼろぼろで、今にも破れて切れそうであった。
けっと噴出して、大男は去った。
「大丈夫ですか?」
チャオが少女に尋ねると、少女は頷く。
「あなたが来て下さるとは意外でしたが……なぜここに?」
「何となくここに」
「なるほど。それはそうと、この少女を匿える場所はありませんか?」
「ちょっと待ってくれ。その前に確認すべき事がある」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第330号
ページ番号
44 / 51
この作品について
タイトル
魔法のサンクチュアリ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第286号
最終掲載
週刊チャオ第332号
連載期間
約10ヵ月26日