14-1

「昨日早めに寝たのにも関わらず眠いのか」
いかにも飛行船が楽しみだというスカイがはきはきと言う。
優輝はふらついた足取りで歩いていた。
「眠いのは人間の摂理ですから」
ナイトが言った。
相変わらず光り輝く“保存機(コンサーヴァス)”がまぶしい。
「遅いわよ! なにやってんの!」
「いや、まだ七時前じゃん」
「とにかく遅いの」
とんでもない理屈だ。
「さ、行くわよ」
「りょーかいー」
乙姫の部屋から壁を越えて、飛行船へと、彼らは乗り込んだ。
学校では、再び学園祭の盛り上がりが続いていた。



 魔法のサンクチュアリ 14 -過ぎ行く風-



「うっわあああああああああああ」
飛行船の上、乗船客の少ない中の一人、江口優輝は、感嘆の声をあげた。
街が遠くに見える。はっきりとした円形。
こう見えて、優輝は普通の家庭に生まれた子供である。飛行機などとは無縁であった。
「こら、あまりはしゃぎすぎると、落ちるわよ」
「大丈夫ですよ。落ちても戻ってきます」
「ああ、時間移動を使えば余裕だろうな」
飛行船の上でも読書する二人だが、いかんせん場所が場所である。
風がけっこう強い。
「というか、すごい森だな。あれ、向こうにも街みたいのがあるじゃん」
「中央魔法国を中心とした地図です」
ぺらぺらの紙を差し出され、優輝は受け取る。
あれ、どこかでみた事がある地図だ。
「なあ、これって人間界の地図とそっくりなんだけど」
「当然でしょ。地球なんだし」
「……地球?」
マジですか。
「“次元階層”が異なるだけで実際は同じ地球……一がよく言っていたな」
「はじめ、って誰?」
「八島一。乙姫の父親ですよ。乙姫がべた惚れの」
「余計な事まで言わないでちょうだい」
ナイトを睨んで乙姫が言った。
父親かあ……乙姫と同じで性格きつい人なんだろうな。
ううん、出会ってみたい気がしないでもない。
「あれ? 江口くん?」
声がした。
「竜胆さん? 何でここに?」
「お母さんがお客さんが見えるから帰って来い、って」
「「「お母さん?」」」
ナイト以外が驚きの声を上げる。
当然である。これから向かう先は大国ガーランド。中央魔法国よりも上等魔法官の数が多いのであるからして。
「竜胆みどりっていうんだけど…知ってるかなぁ?」
「あなたの母親って、国王護衛官だったの?」
乙姫が訊ねると、可愛く微笑んだ竜胆が頷いた。
「留学してきてるんだよー」
「国王護衛官ってなに?」
「単純に言うと、大国ガーランドは王制を採っていますから、その国王の側近ですね」
偉い人かあ、と優輝は思った。
しかし、そんな人が身近にいたとは驚きである。
しかも隣の席。
ポニーテールが風に揺れている、可愛い女の子。
「というか、竜胆といったら“深緑の魔導師”以外に誰がいるんですか?」
「“深緑の魔導師”か。とんでもない母親だな」
「へえ、みどりちゃんの娘ねえ……確かに似てないといわれればそうでもないけど……」
みどりちゃん?
と優輝は首をかしげて、会話についていけない事を悟ると再び甲板から身を乗り出した。
「お母さんに会った事があるの?」
「ええ。随分前だけど。可愛らしい人だったわ。若そうに見えたけど、16の娘がいたなんて驚きよ」
「あたしも久しぶりの再会なんだ」
本当に可愛らしく喋る女の子である。
なんだか聞いているだけで和むような……。
「といっても、実力でいえば百夜のオメテオトルと並ぶほどでしょう? 戦争で活躍したらしいじゃない。反乱軍を一人で防戦一方に追い込んだとか」
「うん。そのときの感謝状が家にあるよー」
「すっごい母親ねえ…」
あの工藤と並ぶといわれても実感がわかないな。
プリンセス=ウィッチと並ぶ、といわれれば一発で分かるんだが。
その様子を察したナイトとスカイが、注釈を加えてくれた。
「世界で上から十番目には入る強さって事ですよ」
「それは強いなあ」
「最も彼女は奇襲や裏工作を得意とする戦略家だと聞いているが」
「そうですね、“クロス・コントラクティ”をしている数少ない人間の一人でしたから」
今では“クロス・コントラクティ”が流行していますが、と付け加えた。
それは、俺が流行らせたのではなくて、ナイト、お前が流行らせたんだぞ。



女二人で会話してしまっているから、優輝たち三人は空模様を眺めていた。
「空って英語でskyなんだよなー」
「僕の名前と同じだな」
「僕とあわせるとnight-skyで夜空になりますね」
「シンクロしてるなー」
「確かに」
風が非常に心地よい。
いっそのこと昼寝でもしようかと考えたが、さすがに勿体無い気がした。
「これから俺の通称、だっけ。それを決めに行くんだったよな」
「後は悪に対する対処方法などを会議するのですね」
「何が良いと思う? やっぱ百夜のオメテオトルとか熾天使セラフィム・ロードとか、ダーク=カーリーとかプリンセス=ウィッチとかより、かっこ良い名前が良いよなー」
「それには賛成ですが良く憶えてますね」
「記憶力には自信があるんだ」
いつの間にか、今までいた街が過ぎ去って遠く見える。
風が肌をかすめて過ぎていく。
「セカンドミリオン、で良いと思うんだが」
「いや数字かよ。もう少し捻ろうぜ」
「難しいものですね。向こうに行けば上出来な命名師がいると思うのですが」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第330号
ページ番号
43 / 51
この作品について
タイトル
魔法のサンクチュアリ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第286号
最終掲載
週刊チャオ第332号
連載期間
約10ヵ月26日