13-3
第一学年、特別魔法クラス、プリンセス=ウィッチこと、八島乙姫さんです!
放送がかかった。
まず目に入ったのは、白磁のような肌。
続いて、白くて綺麗なドレス。
ウェディングドレス、というやつだろうか……。
綺麗だった。
言う事なしで百点満点だったが、やはりというか怒っている表情。
終わったな。
すると、乙姫と目が合った。ような気がした。
思わず微笑むと、乙姫も微笑み返した。
それだけで十分だった。
「我が校のミス・コンテスト、第一位は—」
優輝は言うまでもなく、乙姫だろうと確信していた。
無論、その確信は当たっていた。
「第一学年特別魔法クラス、八島乙姫さんです! どうぞ、みなさん拍手を!」
盛大な拍手。
「ユウキはもちろん乙姫に入れましたよね?」
「いや、俺は誰にも入れてないよ」
「なぜですか?」
「ペン持って来るの忘れたから」
随分と間抜けな契約者に、ナイトは苦笑いした。
舞台では、戸惑ったように笑う乙姫がいた。
最も、ペンがあったとしてもたぶん乙姫に入れたろうけど—
そんな事は口に出さない。
喉がからからなのだ。
そうだ。喉がからからだからだ。
ミス・コンテストを終えた学園祭は、無事に一日目の終了を迎えた。
「優勝おめでとう」
乙姫が着替えてやって来る。首からさげた金のメダル。
「ん」
今までそんな経験ないから、だろうか。
どこか複雑そうな表情で、乙姫は立ち止まった。
「とても綺麗でしたよ」
「それには同意できるな」
「褒めても何もでないわよ」
拗ねたような表情。
すでに見慣れた表情。
ああ、乙姫がいないと、やっぱりダメだな。
「それで、ガーランドにはいつ出発するんだ?」
というかどうやって行くんだろう。
「明朝七時よ。向かう方法は……あれ」
浮かばれない表情で、乙姫は空高くに浮かぶ、飛行物体をさした。
飛行船…のように見えるが……。
飛行船はもっとこう、膨らんでいたような気がする。
あれはまるで船だ。
「船を浮かばせているのよ。魔力で」
「ああ、そうか。なるほどね」
やはりなぜか浮かばれない表情だ。
「それでは、明日に備えて帰るとしましょうか」
「だな」
ナイトとスカイがてくてくと帰っていく。
優輝もその後を追おうと思ったが、一言乙姫に言おうと思った。
立ち止まる。
「乙姫」
「なによ」
「可愛かったよ」
自分で言って恥ずかしくなるような台詞だった。
乙姫は照れたように顔を逸らして、何か呟いた。
「じゃ、明日七時に乙姫の部屋に行くよ」
「分かったわ」
優輝の後姿を見送りながら、乙姫は思う。
この暗がり、この空の色。
—どこかで感じた、どこかであった。
あの後姿を、いつか見ていた。
あの後姿を、いつかと追った。
あの後姿は—
十年前の、あの時の。
「優輝!」
思わず、叫ぶ。
優輝が振り向く。
「約束、ちゃんと守ってるわよ!」
その乙姫幕府三代目征夷大将軍は、にこりと笑って、
「なによりだよ」
とだけ言った。
それだけで分かった。
やっぱり、あの後姿は—
十年前に見て、助けられ、追い続けてきたあの後姿は—
江口優輝。
セカンドミリオン。
彼だった。
だとすれば、何を恐れる必要があるのだろう。
敵は無数、味方は少数、その中だとしても。
彼ならば、切り抜けられるはず。
何せ彼は—
歴史に消えた、“時の支配者”なのだから。