13-2
「ええと、ナイト、地図よろしく」
「どんな魔力を使っても良いんでしょう? 簡単じゃない」
「お前が使うと反則くさいと思うけど」
「優輝も変わらないわよ」
言葉を交わしてから、ナイトが地図を読み終えて優輝に手渡した。
「覚えました。任せてください。間違いなく一位でゴールさせていただきます」
優輝と乙姫は顔を見合わせて、ついでスカイと目を合わせてから、にやっと笑った。
ナイトを敵に回さなくて良かったと、心から思った。
スタートの合図が鳴る。
生徒たちが一斉に走り出した。
「優輝、最初は走ってはだめです。ゆっくり歩いていきましょう」
「なんで!?」
「前の方々で敵をつぶす合戦をしてくれますから」
なるほど。
というかかなり戦略的だな。
「それで一位に離されたりしないの?」
「問題ないだろう。こちらにはセカンドミリオンとプリンセス=ウィッチがいるのだからな」
「でもチェックポイントを通らなきゃいけないんでしょ?」
「チェックポイントを通る、のでは無いな。チェックポイントでもらった合計五つのチップを最終的にあわせればよい」
こいつら本当に頭いいなあ、と優輝は改めて感心する。
ゆっくりと歩いているうちに、何人かはすでに脱落していた。
コースから外れたら負け、なるほど。
「って事は、乙姫が四つ集めて俺らで一つ…」
「なにいってんのよ」
「冗談だよ。とりあえず、二手に分かれて……」
「いえ、」
ナイトはにやりと笑って、作戦を提示した。
「五つのチップを集めてここに来る。一番面倒なのは、集めて“ここに来る”という作業です」
「つまり会場を移動させると?」
「どうやってよ」
「違います。僕がいいたいのは、“ここに来る”という作業を省く、ということです」
「それだとチップが……」
優輝ははっと気がついた。
確かにすばらしい作戦だ。とんでもなく頭の良い作戦だ。
「ここで待ち伏せして、持ってこさせたチップを奪い取る」
「その通りです」
「せこいな」
スカイが指摘したが、ナイトはちっちっと手を振ると、両手を広げてあくどく言った。
「勝てばいいんですよ、勝てば」
「俺、こいつが黒かった理由が分かる気がするよ」
「僕もだ」
「やった、誰も来てない! 俺らの勝ちだ!!」
「急げ! 後ろからもう来てるぞ!」
走って来る五人。
それぞれの手には五つのチップ。
「“環囲いの火炎”!!」
優輝が叫ぶと、五人の行く手を遮るように炎が燃え上がった。
「なんだ!?」
「大人しくチップを渡しなさい」
プリンセス=ウィッチが言う。それだけで相手は萎縮した。
しかし、相手もプライドがある。
「ちっ、相手は三人だ! 五対三、こっちの方が有利…突破するぞ!」
相手は気がついていなかった。
最初に声を放った、優輝がいないことに。
「みんなー、チップ集めてきたからゴールまで行くぞー」
手に五つのチップを持った優輝が、今まで一位を独走していた五人の背後からやって来た。
「いつの間に!?」
炎が消えた。
五人はいまだとばかりに、走り出す。
「“時間移動”」
優輝が言うと、対象に入った乙姫、ナイト、スカイ、その三人と共に、移動する。
今まで自分がいた場所をなぞるようにして。
ゴール、いわばスタートへ。
優輝たちは一位でゴールした。
「は、反則だろ……」
「いやあ、勝った勝った」
チケットが増えただけだったが、それでも優輝は喜んだ。
「待つ時間の方がよっぽど長かったわね」
「ちょろいもんだよ。突風吹かせて落としたチップを回収すれば簡単!」
「さて、乙姫はここらで別行動ですね」
「なんで?」
優輝が訊ねる。乙姫はいかにも嫌そうな顔で、
「ミスコン」
「ああ、がんばれよー応援してるぞー」
やる気の無い声で言うと、乙姫は拗ねたような顔で去って行った。
一時、だったはずだ。全員参加の。
「これからどうする?」
スカイの質問に、優輝は少し考えてから、
「昼飯食う」
「では、行きましょう」
四人から一人減った優輝たちは、再び校内を散策し始めた。
午後一時。
ミス・コンテスト、開催時間。
全学年の生徒らは、続々と会場である多目的ホールに集まっていた。
見れば、舞台に装飾が施されている。
「賑やかだなあ」
「そろそろ始まるようですね」
照明が落とされる。
スカイが眠たそうにあくびをして、舞台の横脇がライトアップされた。
「本日は、中央魔法第一高等学校、ミス・コンテストに集まっていただき、まことにありがとうございます」
生徒会長、だろうか。
「早速始めたいと思います。投票につきましてはお手元の紙に書いた後、右の方に回してください」
「しまった、一番左に座っておくべきだった」
優輝が呟いた。
「それでは、ミス・コンテスト、長い間お待たせいたしました。これより、開催です!」
拍手が割れる勢いで響き渡った。
まず出てきたのは、ショートカットが可愛らしい女の子で、男子のような格好の良い服に身を包んでいる。
どうせ乙姫が優勝だろうなあ、と思っていた優輝は、これは互角くらいかなあ、と思い始めた。
「乙姫にはあんなふうに可愛く微笑んでくるっと回るなんて出来そうにないし」
「本人が聞いたら殺されそうですね」
順当にそれぞれのクラスの女子生徒が舞台に上がっていく。