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「今日は、待ちに待った学園祭当日です。みなさん、今までの準備と練習を生かし—」
「ああ、とりあえずみんな頑張れって事だ! 堅苦しい挨拶は全部抜きで、楽しんでいこうぜ!!」
多目的ホールに集まった生徒たちが、歓声を上げる。
どことなく開放的な雰囲気で、優輝は笑った。
ナイトとスカイも、さすがに読書はしていなかった。
「午後一時にはここに集合してくれよ! 放送かけるけど!」
最後に司会がそういって、生徒は散り散りと教室に戻った。
学園祭が、始まる。
魔法のサンクチュアリ 13 -魔法の学園祭-
中央魔法第一高等学校、九月十六日土曜日、学園祭当日。
来賓を多く迎え、生徒たちは張り切っていた。
「いらっしゃいませー!」
あらゆる方向からそういった勧誘の声が聞こえてくる。
「うわあ、盛り上がってるなあ」
数枚のチケットを手にしながら、優輝は感嘆の声を上げた。
パンフレットとプログラムを見ているナイトはいつも通りだったが、珍しいチャオの形態だからか、注目されている。
スカイも同じく、威風を放っているために注目されている。
優輝は言うまでもなく注目を浴びているが、乙姫には敵わなかった。
「あまりはしゃぎ過ぎないようにしなさいよ。恥ずかしいから」
「こんな日にはしゃがない方が変だろ」
にやりと笑う優輝。
「魔法レース、十時開幕というのがありますね。出てはいかがですか、ユウキ」
「俺が?」
「現在が八時ですから、それまで学校探索するとしましょう。お化け屋敷や推理ショーには興味があります」
「お化け屋敷なんて絶対行かないわよ」
「怖いのか」
「怖いんですね」
「怖いんだ」
「怖くなんか無いわよ」
二言三言かわしながら、優輝たちは学校を探索していた。
無論のこと、優輝は学校の地理に詳しくない。
ゆえに、乙姫が先頭である。
「そこを左がお化け屋敷です」
「だから行かないってば」
「乙姫だけ入らないらしい」
「もうっ」
まだ始まったばかりだからか、それほど混んではいない。
というわけで四人はその教室内へと入っていった。
「あ、チケット」
ポケットからチケットを取り出した優輝は、それを四枚提示した。
受け取った生徒は、優輝をまぶしそうな視線で見つめていたが、乙姫に睨まれてすくんだ。
「い、いってらっしゃいませー……」
珍しくも乙姫は怖がっているらしい。
優輝の服の裾を強く握り締めている。
「さすがに暗いですね。最も、どのような怖がらせ方をするのか、実に興味深いです」
「そういうやつは大抵怖がらないと思うんだけどな」
「そもそも恐怖と言う感情が分からない」
「お前らすごいな」
という優輝もあまり怖がっていないようだった。
乙姫はさきほどから口数が少ない。
突然に、かささ、と後ろで音がした。
「いやっ」
「音だけだって。そんなに怖がるなよ」
それにナイトの“保存機(コンサーヴァス)”のお陰で明るいし、と優輝が言う。
「こ、怖いものは怖いんだから。しかたないでしょ」
「優輝は怖がると思っていたが、そうでもないみたいだな」
スカイの言葉に優輝は、
「いやあ、小さい頃にお化け屋敷で置いてけぼりにされた事があってね。幽霊役の人たちに助けられたからあまり怖くないというか」
「優しい幽霊ですね」
「でも一応怖い事は怖いぞ」
「確かに壁にぶつからないか不安で仕方ありません」
「さすがにそれはない」
それほどまでに三人は捻くれていた。
これではお化け屋敷の方々が可哀相である。
無難に出口を過ぎ、乙姫はやっと裾を離した。
「大丈夫?」
「う、うん」
何度も頷く乙姫。
「それじゃ、さっそく次行こう次」
といって、そそくさと乙姫の手を引っ張って四人は歩いた。
「そろそろ十時か」
もらったチケットを使い果たしてから(何度も乙姫のきつい視線を浴びながら)優輝たちは魔法レース会場へと向かっていた。
舞台はこの下町だと書いてあるが、それ以外は何も書いていない。
「丸い町だから一周するだけか」
「チェックポイントがあるのでは?」
会場のスタート地点にはすでにたくさんの生徒が集まっており、優輝はその人ごみを掻い潜ってから受付に並ぶ。
「ナイトとスカイがいるから楽勝だな」
「私は勘定に入ってないわけ?」
「乙姫は道に迷いそうで」
「私方向音痴じゃないわよ」
と話している内に、優輝の順番が回ってきた。
「参加したいんですけど」
「それでは、ここにお名前を。四名ですか?」
「え、四人ですけど」
「本レースはチーム戦となっているため、最大五人までチームを組めます」
「四人でお願いします」
「かしこまりました。これが地図とルールブックになります。各箇所にあるチェックポイントを通り、最終的にたどり着いた優勝です」
「本当にレースだな」
「どんな魔力を使用しても構いません。怪我にお気をつけ下さい」
この受付の生徒、板についたるなあ、と優輝は思った。
地図とブックを受け取り、スタート地点と思われる場所に並ぶ。