12-3
順当に一日の授業が終わると、生徒たちは一目散に下校しだす。
放課後に学園祭の準備があるからだ。こういうのは大抵、準備段階が一番盛り上がる。
「優輝」
「今日も修行?」
声をかけられた優輝が訊ねると、乙姫は首を横に振った。
「修行なんてしないわよ。学園祭が終わってからガーランドに行く事になったから、連絡しておこうと思って」
「ああ、知ってるよ。さっき竜胆さんから聞いた。これ、ありがとな」
紫水晶のペンダントを指しながら言う。
拗ねたような顔で、乙姫は目を逸らした。
「そういえば、学園祭って何日?」
乙姫の部屋へと向っている途中、優輝が訊ねた。
ナイトとスカイは変わらず読書、全く飽きないのかなこいつら、と優輝は思う。
「16日、17日よ。17日にガーランドへ行く事になるわ」
「16日だけかあ……」
「あ、あのっ」
目の前に女子生徒が突然現れたので、びっくりした。
「野生の女子生徒が飛び出してきた!」という文字を思い出して、優輝は内心苦笑する。
「江口優輝さんですよ…ね?」
「そうですけど」
「こ、これ、私のクラスの催しの、チケットです。よ、よければお越しください…」
両手で差し出されたチケットと、目を横に向けて暗黒のオーラを発する乙姫を交互に見てから、優輝はチケットを手に取った。
「ありがとう。必ず行くよ」
そういうと、女子生徒は「では」と言って去っていく。
「俺、チケットなんてもらったの初めてだなあ」
「まあユウキは昨日の件でかなり知名度が上がったといって良いでしょうからね」
「良い迷惑だわ」
乙姫が言った。
「俺そんなすごい事してないよ」
「実際はしてましたが表面上はしてませんでしたし」
「何の話?」
乙姫が訊ねた。
やっぱり違うなあ……と、優輝は感慨深く思った。
あの乙姫がいなくなった世界—忘れてしまった世界。
抜け落ちた感覚と絶望。
必ず元に戻してやると誓って発動した時間移動。
全て、もう過ぎてしまったとは。
「なんでもない」
「そうよね。いつもそれだもの」
「というか、話しても信じられるものではないだろう」
スカイが指摘するが、乙姫はいまだに不機嫌そうな顔をしている。
「あれさ。とある人と約束しに行ったんだよ」
「とある人って、誰」
「俺の一番よく知ってる人」
乙姫が誰だろう、と考えているうちに、優輝はそそくさと歩いていく。
まるでふきだしみたいだ。
実際は何も起こっていないように見えて、ふきだしを入れるとそこだけ中身が出来る。
一瞬、一秒の間にどれだけすごい事が起こっていても、大抵の人は気付かない。
それを知っているのは、自分と、二人の契約者だけだから。
「あっ、待ちなさいよ!」
「一人で考え込んでる方が悪い」
「あんたが出し惜しみするからでしょう!」
「教えられないね」
「もう、馬鹿」
「いやあ、実に学園祭が楽しみだよ。そう思うだろ?」
「同意です」
「最もだ」
「すぐそうやって誤魔化して……」
そして、学園祭当日がやって来る—