12-2
空間切断の事だろうか。あれは光線ではないのだが……。
ちなみに回りに寄って来た生徒たちは全員が全員名前も覚えていない生徒ばかりだった。
もしかしたらクラスの違う連中も混じってる?
「今度魔力教えてー」
「私、魔法官が目標なんだ」
「ずりぃぞ、松山! 江口、俺に教えてくれよ」
「そういえば、江口くんって何の階級持ってるの?」
教室に沈黙が奔る。
ナイトとスカイのにやにや顔が目に付く。
「階級って、なに?」
「ええ! 知らないの!? あんなに強いのに?」
「でも普通にウィザード以上だよね。すっごい強いし」
「小さい頃から魔力やってるんですか?」
「いや、俺人間界から来たし」
「大変だな、江口」
教室に入ってきた工藤が言う。
「君たち、そこらへんにしてやってくれないか。江口は結構な照れ屋だから、そこまで囲まれると動揺するだろう。おまけに、彼は昨日の戦闘で疲れているだろうしね」
「そっかー。ごめんね、江口くん」
「いや、大丈夫だけど」
動揺すると“いや、”が多くなる優輝であった。
「では、学園祭も近づいてきたので、準備に取り掛かろうと思います」
クラスから歓声があがる。やる気のあるクラスだ。
確か、迷路をやる手筈だったはずだ。
ちなみに仕事なのか、まだ乙姫は来ていなかった。
「このクラスは罠仕掛けの迷路をやるという事で何か意見のある人いますかー?」
ホームルーム委員なのだろうか…あの生徒。
思えば優輝はこのクラスについて、この学校について、よく知らなかった。
改めて考えると、それって変だ。
そんなことを考えていると、廊下から大声が聞こえた。
「だから、出場しないって言っているでしょう」
「でも……」
がらら、とドアが開いて、乙姫が堂々と入ってくる。
プリンセス=ウィッチとして有名かつ畏怖の対象である乙姫だが、なぜかその畏怖の雰囲気がきえている事に優輝は気がついた。
あれ、おかしいな、という具合に。
まあ単純に考えて、目も覚めるほどの美少女なのだから当然だが。
「八島さん、ミスコンの推薦?」
「そうよ。全く、出ないって言ってるのにしつこい生徒で」
「絶対出た方が良いってー」
「そうだよ。八島さん綺麗なんだし、絶対上位入賞確実だよ」
あれ、本当におかしいな。
まさか時間移動の時に認識変化か何かでやらかしてしまったのだろうか。
いや、ない。
はて、自分は関係ないとなると、何があったんだろう。
「もうっ、私、そういうの苦手なの」
といって席に着いてしまっても、クラス中の生徒は乙姫を見てにこにこと笑っている。
「そうだね、まずミスコンの出場者から決めようか。クラスから一人出場選手を選ぶんだけど、八島さんで賛成の人!」
クラスほぼ全員の手が挙がった。というか優輝と乙姫以外は全員手を挙げていた。
いつの間に乙姫はこんなに人望が厚くなったんだ。
それは優輝の寝ている間の、テレビ報道に原因があったのだが、無論そんな事は当事者に気付かれるはずもなかった。
こういう時は、と優輝も手を挙げておく。
「わ、分かったわよ。出ればいいんでしょ、出れば。入賞しなくたって知らないからね」
「拍手ー!」
一人のために、クラス全員が拍手喝采。
そんな乙姫はどこか照れた表情で、居心地を悪そうにしていた。
だが、仕草こそ嫌々なれど、優輝は知っていた。
たぶん、嬉しいのだろう。
クラスの一員として迎えられる、ただそれだけの普通の事が。
昨日のテレビ報道の事を記しておくと、こういった経緯があった。
「私は世界で一番偉い人間じゃないわ。世界の人を一番守らなくてはならない人間なのよ」
「ですがしかし……」
「いーい? 私が逃げたら誰がここを守るの? それも、学園祭と言う大切な時期に。とにかくガーランドの首謀閣下に行って頂戴。学園祭が終わるまで、会議の期限を延ばしなさいと」
「…分かりました。伝えておきます」
「…って、これ報道してるの!? や、やだ、ちょっと! 何撮ってんのよ!」
「へえ。あの乙姫がねえ……」
「うん。だからねー、みんな尊敬してるんだよー」
にこにこと笑いながら竜胆が言う。
しまった、見逃した。なぜ寝てたんだ俺。テレビくらい付けておけばよかった。
—と後悔している優輝だが、クラスメイトに囲まれて照れたように応答している乙姫を見ていたらどうでも良くなってきた。
良いことなんだろう。
「まあ優輝が来てから、乙姫は随分変わりましたからね」
「俺はあんま関係ないような気が……」
「昔の映像を見せれば一発で分かる。変わった」
スカイまで念を押した。
まあ、確かに前と比べたら少しは笑うようになったかもしれないが……。
分からん、と優輝は肩をすくめた。