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 魔法のサンクチュアリ 12 -開域-



「“聖域”!!」
渇いた声が響き渡った。
それは国中の五十嵐が操作するダミー……つまり、認識された行動だけしか出来ないそれらを破壊し、国を覆った。
「“空間切断”!」
「“結界—!?」
結界を突き破った衝撃波は、五十嵐の頬をかすめて、空へと消えた。
「結界を、破った…?」
“聖域”、その効果だった。
発動者の魔力は他の魔力の影響を受けない。
「だが、お前の呪力はすでにゼロに近い……終わったな、セカンドミリオン!」
「“圧縮する風圧”」
再び結界を突き破った風が、五十嵐を吹き飛ばす。
発動者が結界の中心からいなくなったためか、結界が消えた。
「なぜだ…なぜ魔力が使える!? なぜだあああああああ!!!」
“聖域”—第二の効果。
発動者の呪力は、“聖域”発動中および“聖域”に必要な分の呪力がなくなるまで他の魔力によっては減少しない。
「……」
乙姫が優輝を見る。
いつの間にこんな魔力を、といいたいのだろう。
「乙姫、早くあいつを」
「え、は、はい!」
乙姫は路上に立つ五十嵐に照準をつけると、即座に唱えた。
「“風縛り”!」
「プリンセス=ウィッチ……! くっ、なぜ、なぜだ。計画は成功したはずなのに……」
それはだな、と、優輝はにやりと笑いながら心の中で呟いた。
それはだな、俺がお前の計画を破ったからだよ。
詰めが甘かったな、五十嵐。
お前の負けだ。
……なんて事はもちろん口に出さなかった。
今回は喉がからからすぎて出せなかった、というべきか。



う、うう……。
頭がくらくらする。どうやら呪力が回復中のためらしい。
あれだけ寝たのにも関わらずこの状態だ。
不公平にもほどがあるだろ。
「ナイトー、あとどんくらいでこれ治るの?」
「もうしばらくですよ。まあ、明日は学校へ行けますから安心してください」
「苦痛そうだな」
引きつった笑みでスカイがいった。
暇つぶしにと外を見て、ああ外は暗いなあ、と思ってから、優輝はナイトを見る。
光る“保存機(コンサーヴァス)”、白い体、透き通る手足。
欠点をあげるなら、目が緑色なことか。
それでも綺麗だった。
「もう一眠りしてくる」
優輝は今日起きた出来事を反芻しながら、深い眠りに着いた。



九月二日、土曜日。
天気は、晴れ。
「……というかさ、何で太陽はあるのに月がないんだ?」
いつもの通学路を歩きながら、優輝が訊ねた。
博識も周知の事実であるナイトが、見慣れない新しい体を読書に費やしつつ答える。
「人間界における“月”とは“太陽の光を受けて光る惑星”の事です。こちらでいう“月”はあの光ってるのがそうですよ」
「って事は、太陽がないのか」
「名称が違うだけで、中身は変わりません。“月”ですが、英名で言えば“sun”です」
「複雑だな」
スカイが言う。
ところで、と優輝は新たな疑問を思いついた。
「ナイトとかスカイとか、誰がつけた名前なんだ?」
「付けたのは分かりませんが、呼んでいたのは父親です。乙姫の」
「僕らはよくあの破天荒な父親と悪戯を仕掛けたものだ」
「へえ、父親ねえ………」
………。
「名前の由来が分からない……」
「僕は生まれたころ真っ青な体だったからな、空に例えてスカイ、雲に例えてクラウディアだ」
「悪戯していたら体が黒くなってきたのでナイトです。夜、ですね。加えて通称“夜想”のノクターン。ナイト=ノクターンです」
へえ、と優輝は妙に納得した。
「最も、これは単なる予想ですがね」
とナイト。
そういえば自分は自分の名前なのに、由来なんて知らないなあ。
というか今更どうやって調べれば良いんだろう。
「ユウキなら簡単に予想がつきますよ」
「そのままだからな」
首を傾げる優輝。
こ、これが天才と言うやつか……!
「いや、むしろ分からないやつの方が少数だと思うぞ」
「じゃあ俺少数派か」
にやっと笑って優輝が言うと、ナイトが困ったように溜息をついた。
言おうと思った、優輝の名前の由来。
優しく輝く、そのまま。
初めてチャオを対等の者として認め、普通に接する、唯一の人間。
彼のお陰で“ディレクト・コントラクティ”の数が減少し、彼のお陰でチャオたちは現在も笑いながら暮らしている事だろう。
優しさ。
輝き。
きっと彼の名付け親は、子供の才能を一瞬で見抜いたに違いない。
と、名付け親が身近にいる事も知らずに思った。



「おはよー、江口くん」
「おはよう」
「江口くん! 昨日すごかったね!」
「私、尊敬しちゃった! 私も“クロス・コントラクティ”したんだよ!」
「すげえじゃねえか江口! なんかすげえやつをやっつけたんだって?」
「ま、まあ」
教室に到着した優輝がまず驚いた事は、昨日の騒ぎを全員が知っている事だった。
情報早っ!
それはともかく、目立つのがあまり好きではないというか得意でない優輝は正直に困っていた。
そんな困った優輝を遠目から、ナイトとスカイが見てくる。
あいつら……。
「いやでも、俺ほとんど何もしてないし。ナイトとスカイが戦ってくれたんだよ」
「嘘だな。俺、この目できちんと見たぜ」
「うん。なんだっけ、あの光線みたいなのとか」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第329号
ページ番号
37 / 51
この作品について
タイトル
魔法のサンクチュアリ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第286号
最終掲載
週刊チャオ第332号
連載期間
約10ヵ月26日