11-3

五十嵐は風の波動を食らい、吹き飛ぶ。
ところが、優輝の背後に五十嵐は移動していた。
「俺の得意とする魔力は“転移”! お前らの魔力はほぼ無効されたも同然!!」
光る刃を優輝に突き刺す。
驚く優輝。ナイトとスカイが向かおうとするが、乙姫が後ろにいることに気付く。
「お兄ちゃん!」
優輝の事らしい。
乙姫が叫ぶと、優輝はしてやったり、みたいな顔をしていた。
「なあ、その光る刃って、刺さるだけで呪力を奪うものなんだよなあ」
「試してやろうか。“呪力吸収”!」
「“魔力吸収”!!」
「馬鹿な!!」
呪力を吸収する魔力を逆に吸収していく優輝。
すぐに五十嵐は刃を引き、優輝から間合いを取る。
「見くびっていた……実に強い、江口優輝!!」
「“空間切断”!!」
五十嵐へ、衝撃波が放たれる。それを光る刃で受け止めようとした五十嵐は、優輝の姿が前に無い事に気がついた。
気がついたときには、遅かった。
首根っこを掴み、五十嵐を地面に叩きつける。
「か—はっ!」
「乙姫! 一つ、約束してくれ!」
「え……?」
小さな乙姫が呟く。
すう、と息を吸い込んだ優輝は、その言葉を叫んだ。
「絶対に、何があっても死ぬなよ! 絶対だ! 約束してくれ!」
「う、わ、分かってるわよ!」
「昔から変わらないやつだなあ……」
すでに喉がからからである。
さきほどから叫んでばかりだからだろう。
「貴様、図に乗るのもいい加減に—!」
「“流るる時に逆らえ、我は時の支配者なり。されば命ずる!!」
「“光線刃”!!」
「時間移動”!!」
ナイトとスカイ、そして五十嵐を巻き込んだ時の移動が始まった。
元の場所へ。
元の、あの時間へ。
戻るんだ。
時よ、俺の意志に従ってくれ—……。



「ここは……」
誰もいない場所。
誰もいない世界。
そうだ、ここは。
「聖域?」
だけど、なんで?
あれは寝てたからまだしも、自分は今“時間移動”をしたばかりで。
どうなったんだ。
「優輝くん」
「りん、どうさん?」
背中に羽が生えた竜胆だった。
少なくとも、姿は。
「世界を戻してくれて、ありがとう」
「いや、というかなんで俺はここに」
「すぐあなたは行かなきゃならないから、手短に言うね」
竜胆は、そのポニーテールを揺らしながら言った。
「あなたが危険に陥ったとき、あなたがすごく落ち込んだとき、私を呼んで」
「竜胆さんを?」
「違う。ここへ、“聖域”の魔力を使って、来て」
「“聖域”?」
「誰も知らない。私だけの魔力。誰にも教えてないから。でも、あなたは特別。世界を戻してくれたお礼に、教えてあげる」
その美貌に一瞬揺らいでから、優輝はうなずいた。
なぜか、そうしなければならないように感じた。
「“聖域”って、叫べばいいんですね」
「あなたなら、それで十分だと思う。だって、“完全時間移動”の呪文に改竄を加えても成功させちゃうくらいだもの」
「戻ったらさっそく試してみます」
「よろしくね」
にっこりと微笑んだ。
「“時間移動”と唯一並ぶ、召喚の魔力」
あれ、と優輝は呟く。
なんだか体が軽くなってきた。
「“聖域”」
何か言おうとしても、何もいえない。
最後に、その女性はこういった。
「がんばって」



優輝は元の時間に回帰した。
そこには、
青空と太陽と、
進化したナイトとスカイが五十嵐と戦闘を行っている光景と、
自分の胸にかかっている紫水晶のペンダントと、
自分を心配そうに見ている乙姫が、確かにあった。
「さあ、決着をつけようじゃないか、五十嵐健二」
驚いて、五十嵐が優輝を見る。
「乙姫を殺した罪は重いぜ」
「馬鹿な、なぜ—」
「魔力を使った人間以外は自動的に“認識変化”が起こるのか。でも、ナイトとスカイは別みたいだな」
「もちろんです」
「当然だ」
優輝は右手を高らかに挙げて、渇いた叫びを響き渡らせた。
「“聖域”!!」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第328号
ページ番号
36 / 51
この作品について
タイトル
魔法のサンクチュアリ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第286号
最終掲載
週刊チャオ第332号
連載期間
約10ヵ月26日