10-3
帰宅するなり、優輝はテレビをつけた。
人間界にもあってこっちにもあるもののうち、機械的なもの。
ナンバーワン、テレヴィジョン。
これはすごい発明だよな。誰が発明したんだっけ。ワトソンか?
いや、ワトソンはホームズだよな。だったら……エジソン、そうだエジソンだ!
これもなんか違うなあ……。
すると、ニュース速報が入った。
「臨時ニュースです。マスター=マジシャンが大国ガーランドよりこちらへ向かった、と通告がありました」
「マスター=マジシャンって、確かすっげえ偉いんだよなあ」
「僕は嫌いだが」
「僕もです」
ここまでシンクロしているチャオもそうはいまい。
でも—
いい加減、この違和感がつかめないのは厳しい。
「そういえば、チャオって一次進化ー、とかするんだよな?」
「だいたい二ヶ月で一次進化、十ヶ月ほどで寿命を迎えます」
「へえー」
突然心配になって来た。
こいつら、大丈夫だよな?
「スカイは、一次進化したばかりですから」
「なるほど」
「二次進化はしてないがな」
意味が分からなかった。
調べてみよう。
「本どこやったっけ?」
「タンスの中ではないでしょうか」
優輝は立ち上がって、タンスの一番上を開けた。
覚えの無い包みを見つけて、それを手にとって見る。
やはり見覚えが無い。
「これ、誰の?」
「分かりません」
「分からん」
ううん、と首を傾げた優輝は、その黒い包みを開けてみる事にした。
中には丁寧に折られた紙が一枚と、高価そうなペンダントが入っていた。
「どう考えても俺のじゃなさそうだな」
紫色の宝石が埋め込まれたペンダントを見て、感想を述べた。
ナイトとスカイがその宝石を見て、何か考え込んだ。
「この紙も見ちゃっていいかな」
「ちょっと待ってください」
「ああ、僕も気になる」
優輝の契約したチャオたちが優輝の傍に寄って来た。
「これ、紫水晶では?」
「呪力蓄積度ではチャオを上回る、“保存機(コンサーヴァス)”か?」
「……ユウキ」
突然真面目な口調になったナイトが、尋ねた。
「朝から何か違和感を感じていたのです。どうやら、スカイも、そうですね?」
「その通りだ」
「なぜこんなものがここにあるのか。これは、十年前に何者かによって破壊されたはずです」
そういわれても、と優輝は戸惑って言う。
ナイトとスカイの視線を受けて、優輝は包みから紙を取り出した。
手紙…のようだった。
「読み上げてみる」
うなずく二人。
「拝啓、夏の勢いもあっという間に過ぎ去り、心地よい秋の風が吹く今日この日、お元気でしょうか—」
「私は学園祭前に、大国ガーランドへ向かわなければなりません。その間、あなたが心配です」
「だから私はあなたの特訓に力を貸しました。口では恥ずかしいから、手紙で言わさせていただきます」
「ガーランドへはあなたの護衛完備、メシア=フォースの調査、新しい通り名の発行、加えて悪への対処を会議しに行きます」
「出来れば、付いて来てほしい……です」
「優輝、プレゼントありがとう。あと、助けてくれて…これは幽閉された時だけど」
「本当に、今まであなたみたいな人いなかったし…感謝してます」
「だから、これはほんのお礼」
「近いうちに、本格的な魔力の修行を開始するわよ。覚悟しておきなさい」
「敬具—……八島、乙姫より」
長い文章を読み終えた優輝は、しばらくの間呆けた後、手紙を丸めた。
ペンダントを首からかけて、手紙と一緒に包みをゴミ箱へ入れた。
「乙姫は、どこだ?」
「図書室へ行きましょう。おそらく、資料があるはずです」
走って図書室まで来た優輝らは、すぐ歴史の棚を見た。
探すまでも無く、それは見付かった。
「十年前の事件だな。よく覚えている」
「確か、小さな子供が死んだ…と記憶しています」
そこにあった名前。
十年前の事件。
八島一の娘、八島乙姫が、何者かによって殺害された。
そう書かれている。
「どこに行ったんだ。なんだったんだ」
思わず呟きがもれていた。
「なぜ乙姫がいない? なんで乙姫が死んでるんだ? スカイと会ったのは乙姫がいたからだ。乙姫がいなければ俺はナイトにも会ってないはずだ」
整理するように、口早に言っていく。
「乙姫がいないのにどうやって俺はプレゼントを渡したんだ。乙姫がいないのに、俺はどうやって魔法界まで来たんだよ!」
「優輝、やつの最後の言葉からすれば、見当はつく」
「—“時間移動”ロングバージョン、ですね」
にやりとナイトが笑った。
優輝ははっとしてすぐ棚を漁った。