10-1

夏休みが終わった。
実際かなり短かったような気がする。それはたぶん、乙姫と一緒にいたからだろう。
修行—自分がどれだけ強くなったのか、よく分からない。
ただ、何となく、漠然と強くなった。
それだけは感じた。
根拠の無い自信。
それが崩されるのも、時間の問題だった。



 魔法のサンクチュアリ 10 -戻る世界-



新学期。
どことなく懐かしい気分で、優輝は学校へと向かっていた。
隣を歩くスカイとナイト。
これもすでに、当然であった。
「新学期早々テストがあるとか、そういうのは無いよな?」
「僕に訊かれましても」
「最も、優輝に勉強は関係ないと思うがな」
ははは、と笑いながら、優輝は教室へ着いた。
始業式でもある、新学期。
日本でいえば、秋か。
教室のところどころで、夏休みの思い出を語り合ったりしているのが聞こえる。
「やあ、夏休みはいかがだったかな?」
工藤だった。
別名をあげれば、百夜のオメテオトル、といったはずだ。
「疲れた」
「それはごもっともだ」
にやりと笑った工藤は、すぐに自席へ戻っていった。
相変わらず真意が読めないやつだなあ。
ナイトとスカイは早くも読書に入っており、こいつらは他にすることないのかね。
例えば、他のチャオと仲良く戯れるとか—と考えて、その光景が想像出来なかった。
「おはよー、江口くーん」
「おはよう」
手入れされているのか、それとも地なのか、さらさらなポニーテールを揺らしてやってきたのは竜胆である。
やはり白い羽はなかった。
おかしいな……確かにあったはずなのだが。
訊こうと思ったが、竜胆は早々に女子の集団の中へ入っていってしまったので止めて置いた。
すると、前から声がかかった。
「今日、暇?」
「俺に何か用事があると思うか?」
こちらの事は何も知らないのだから何か用事があるということもない。
「いえ、さっきの女の子とどこか出かけるとか」
「なんで?」
「なんでもないわよ」
拗ねたように言う乙姫。
これも慣れたなあ、と優輝は思った。
「なら、放課後あなたの家に行っていいかしら?」
「いいよ」
そう答えると、どこかご機嫌な様子で、乙姫は前を向いた。
変だな。
「ねえ、優輝」
「なんだよ?」
「あなたと私って……いつだったか、よく覚えてないけど……あなた、私といつか、約束みたいなことをしなかった?」
「してないけど」
「そ、そう……」
やっぱり変だ。



始業式を終えると、優輝は早めに帰宅した。
家に乙姫が来るらしい。片付けておかなければ。
「だから普段から片付けておけと言って置いたでしょう」
「普段はやる気が起きないからこういう時にやっておくんだよ」
「優輝らしいな」
「だろ」
新調したテレビをつけて、手早く散らかった部屋を綺麗にしていく。
大分片付いたころに、インターホンが鳴った。
「あいてるよー」
そういうと、乙姫は無言で入ってきた。
その様子があまりにも堅かったから、優輝はどうしたんだろう、と思って訊ねてみた。
「どうした?」
「あ、あの」
手を後ろで組んでいるらしい—と思ったら、黒い包みが差し出された。
「これ」
「これ?」
「ぷ…れぜんとよ」
プレゼント?
優輝は感動でじいんとした。
あの乙姫が、この自分に。
プレゼント。
表情は取り繕っているものの、優輝の頭の中では満面の笑みを浮かべた自分が空を飛んでいた。
「ありがとう。開けていい?」
「だ、だめえ! わた、私が帰ってから開けて」
包みを優輝から奪い取ると、タンスにしまった。
照れ屋にもほどがあるだろう、と思ったが、優輝は何も言わずに台所に向かった。
昼食を作ろう。
そう思ったときだった。
突然、悲鳴が聞こえた。
「乙姫!」
「行ってみましょう」
「ナイト、スカイ、行くぞ」
「分かりました」
「了解」
ドアを突き破る勢いで、四人は外へと出た。



街路の上空。
そこに、一人の男が台座に座っていた。
他の顔に包帯を巻いた人間たちは、民衆を襲っている。
「セカンドミリオン、私はお前に興味がある。今すぐ出て来い」
その声は、国中に響き渡った。
「俺がセカンドミリオンだけど」
男の真下で言うと、男は文字通り降りてきた。
優雅に、ゆっくりと。
すたん、と着地する。
「お前がセカンドミリオンか」
「そうだよ」
「あなた、誰?」
乙姫がにらみつけた。動じず、男はマントを払った。
「その力、私が貰い受ける」
「は?」
「“Full winding”!」
乙姫が叫んだ。ナイトとスカイは優輝の前に立ちふさがると、右手を前に突き出す。
素早い展開だった。
風圧は男を吹き飛ばした—かのように見えたが、男はいつの間にか優輝の後ろに移動していた。
「変わり身の術、といったかな」
「え—」
乙姫が驚きの声をあげた。
優輝は後ろから胸に光る刃を突き刺された。
「“呪力吸収”」
言ったのは男だ。
優輝の呪力は見る間に減少していく。
ナイトが素早く移動し、男に手を突きつけた。同じく反対側に、スカイ。
しかし、男は一瞬で消えて、台座の上に再び座った。
「くそっ、あの野郎!」
優輝が言う。
「“圧縮する風圧”!」
「“結界”」
透明の境界に阻まれた風は、その勢いも何処へやらと消える。
にやりと意地の悪い笑みを浮かべる男。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第328号
ページ番号
31 / 51
この作品について
タイトル
魔法のサンクチュアリ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第286号
最終掲載
週刊チャオ第332号
連載期間
約10ヵ月26日