09-3

一日中練習をしていたせいか、優輝の顔が疲れている。
肩も何かのしかかっているようだ。
隣のナイトとスカイは対照的に元気で、はきはきと歩いている。
「初めてにしては上々だな」
「ユウキは飲み込みが早いですから」
とりあえず眠りたい。
優輝はそう思った。





やがて時は経ち、夏休みも残すところあと五日となった。
順調に修行を繰り返していた優輝は、どうやら何とか上達したようで、木刀をうまく扱う事が出来るようになっていた。
「ふう、それじゃあそろそろお昼食べに行きましょ」
「さすがに毎日やってると疲れるな、これ」
中学、高校と運動部とは無縁の優輝が言った。
「部活とか、朝の運動とか、そういうものがあると書いてありましたが?」
「俺はやってなかったから。何か、そういうのって好きじゃない」
「体力も運動神経も無いんだからやっておけば良かったのよ」
「せっかくの青春の一ページを汗臭さで覆うわけにはいかないのさ」
食堂に向かいつつ、そんな取り留めの無い話を続けていた。
夏休みに入ってからと言うもの、これが日課になっている。
「ほとんど寝てないでしょうから、午後の練習が終わったら後は休んでいいわよ」
「まじで?」
優輝の目が輝いた。
「ただし、私たちに勝つことが条件だけど」
優輝の頬に冷や汗が流れた。



「ルールを説明しておくわ」
と、乙姫は前置きして、
「あなたとナイト、スカイ以外があなたの敵よ。あなたは時間まで逃げる事」
「また逃げるのかよ」
「怪我させなければどんな魔力を使っても良いわ。他にルールはないけど、こちら側はあなたを拘束しようとするから、何としてでも時間まで逃げなさい」
疲れそうだなあ、と優輝は落胆した。
「私が一分経ったら放送かけるから、そしたら私たちが動き始めた合図」
「了解」
「分かりました」
「こちらが拘束するのは有効か?」
「もちろんよ。怪我させなければ何をしても良いんだから」
さあ、始めて、と乙姫が言って、優輝はナイトとスカイを抱えると一気に走った。
どこに行くか迷ったから、とりあえず屋上へ向かうことにしたのだ。
影の男—白石と戦った塔がある屋上へ到着するなり、優輝はナイトとスカイに作戦を説明した。
「ナイト、お前はここで見張りを頼む。ここからならどこに誰がいるのかが分かるから、それを俺に伝えるのがスカイだ。出来れば紙か何かで伝達してくれ」
「分かりました」
「俺の居場所を今から伝える」
優輝が言った“隠れ家”に、一同は苦笑した。
優輝の特技は料理と、かくれんぼ。
人間界では、通称“蓑虫”と言われていたのである。



「プリンセス=ウィッチより、上等魔法官、中央魔法第一学校一学年全員に告ぎます。逃亡中のセカンドミリオン、江口優輝を拘束してください。成功したものには報酬として、呪力を一部献上します」
そんな放送がかかって、ナイトは戦闘態勢に入った。
「しかしここまで相手が多いとは、少し手こずりそうですね」
紙コップに向かって言うと、その紙コップから返事が返ってきた。
「相手が多ければ全体の統一性は薄くなる。好都合だ。何せこちらは完全に連携が取れる状態にあるのだからな」
紙コップと紙コップの無線。
風雲属性、スカイの得意とする魔力を応用したものだった。
相手が動き出した。
ところが、いつまでたっても優輝が見付からないようである。
当然だ。
まさか、

あんなところに隠れているとは、誰も思わないだろう。



鐘が無かった。
時間だ。
優輝ははあ、と溜息をついて、やっと休めるよと呟いた。
てくてくと歩いていく。
扉から外に出ると、なんだか騒がしかった。
その扉には、こうかかれていた。
「魔力行使許可練習場」
出発地点だった。
しかも、わざわざ扉を開けている。そして、その扉の裏にひっそりと。
来たものを即行で仕留めようと考えてそこにいたのもあるが、さすがに気付かれなかった。
一番良いのが、人の多い場所。だが、優輝にはそういう知識がない。
ということで、隠れるなら相手の裏をかいた場所、出発地点。
「勝った」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第327号
ページ番号
30 / 51
この作品について
タイトル
魔法のサンクチュアリ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第286号
最終掲載
週刊チャオ第332号
連載期間
約10ヵ月26日