07-2

「我らがメシア=フォースの結束を忘れたか、貴様!!」
街だった。
かなりの人がいた。当然である。昼間なのだから。
その街中で、自らがメシア=フォースの一員である事をさらけ出した。
上級の魔法官が、メシア=フォースの一員。
大罪である。
自爆した男は、ふふふふふと怪しげに笑うと、叫んだ。
「そうだ! 私がメシア=フォース幹部だ!! ダーク=カーリーを幽閉し、セカンドミリオンを奪取する計画だったんだよ! 気付かぬ馬鹿どもめ! 私がここの襲撃が多いのは八島乙姫が内通者だからだ、といえば信じ込む愚かさ! 本当に愚かしいものどもだ!」
あちゃあ、と優輝は自分の事のように溜息をついた。
まるで母が見ていた火曜サスペンスの犯人並みの馬鹿さである。
乙姫を地面にゆっくり下ろすと、優輝はどうするかなあ、と考えた。
すると、隣でとてつもないオーラを出す女性が一人。
スカイが思わず離れるほどの、恐怖の黒いオーラだった。
「よくもやってくれたわねぇ」
静かな声で、静寂が奔る。
白いローブの男は硬直したように動かない。
瞬間、乙姫は消えた。
“大旋風”“切り裂く竜巻”“真空の弾丸”と、三連続で男を痛めつけた乙姫は、ぜえぜえいいながら男の前に立ち尽くす。
もちろん、彼はすでに気絶しているのだが。
「私を敵に回すなんて、千年早いのよ!」



騒ぎが収まった後。
正式に乙姫の釈放がすぐさま決定され、代わりに白いローブの男が幽閉された。
もちろん、優輝らに罪はかぶさらなかった。
逆に感謝状を贈られたくらいである。
優輝はというと、ガーデンでチャオたちに礼を言っていた。
「ありがとな。みんなのお陰で助かったよ」
チャオたちは口々に笑う。どうやらあれが暇つぶしのようなものになったらしい。
すごい神経してるなあ、と優輝は笑う。
「チャオという生き物は、温和ですから」
あまり関係ないだろそれ。
そんな会話をしていると、遠くの方からスカイがやって来た。
「江口優輝といったか」
スカイ=クラウディアは優輝の前に膝ま付いて、頭を下げた。
「あなたの実力を見込み、お願い申し上げます」
「は、はあ……」
「私、スカイ=クラウディア、あなたさまと契約を願います」
ナイトでさえ驚きの声を上げた。
特に断る理由もないので、優輝はいいけど、といった。
「ではここにて、“クロス・コントラクティ”」
優輝の二人目の契約が完成した。



スカイとナイトを横に連れて歩いていると、前から魔法官の制服を着た白石がやって来た。
「なにやってんの? コスプレ?」
「俺はメシア=フォースを脱退したのでな。めでたく就任が決定された」
「それはめでたいな」
優輝と白石は睨みあってから、にやりと笑った。
「決着は次こそつけさせてもらう」
「こっちの台詞だ、影坊主」
取り留めの無い会話をした後、乙姫の部屋の前に到着した。
まず、スカイと契約した事。
かなり魔力を覚えた事。明日からにでも練習は開始してほしいこと。
話したいことはいっぱいある。
いつの間にか、彼女が生活の要になっているのかもしれなかった。
ドアを開けた。
寝てた。
ふう、と溜息をついて、スカイとナイト、二人の契約者と顔を合わせた後、優輝は帰宅する事にした。




翌朝。
目覚めた優輝がまず驚いた事は、スカイとナイトが二人して読書している事だった。
こいつら、読書仲間だったのか?
「ユウキ、朝食を取ったらすぐ登校しますよ」
「はいはい」
「優輝、どうやら魔力の練習をするらしいな。お前には必要ないと思っていたが」
「俺もそう思い始めてるよ」
何だか家族が増えたみたいだなあ、と楽観的に考えて、優輝は朝食を手早く作る。



登校してまず驚いた事。
チャオがたくさんいた。
まあ、契約期を過ぎたのだから当然といえば当然である。
ただし、チャオを二人も連れているのは優輝だけだ。
「そりゃそうでしょう。“クロス・コントラクティ”なんて、大抵一対一でするものよ」
前の席で乙姫が解説する。
どうやらそうらしいが、何だろうな、自分が特別って感じがあまりしなかった。
ちなみに、ナイトとスカイは優輝の席の下で仲良く読書していた。
「とにかくっ、今日から始めるからね」
「分かってるよ」
なぜ今日からなのか。
今日はめでたく終業式だった。
心躍る夏休みだわーい、という習慣がこちらにもあって幸いだ。
わーい。
「馬鹿じゃないの?」
真剣な表情の乙姫が言う。
胸の赤い宝石がきらりと光った。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第302号
ページ番号
24 / 51
この作品について
タイトル
魔法のサンクチュアリ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第286号
最終掲載
週刊チャオ第332号
連載期間
約10ヵ月26日