07-1

「貴様は、私が片付けよう」
等身大の大きな杖を持った男がそういって、優輝は神経を集中させる。
肝心なのは、やる気と根性。
喧嘩で勝ち負けを左右するのは相手の力を恐れない事だ。
「スカイ、ユウキ、ここは僕が抑えます。あなた方は、乙姫を」
「ナイト…でも、」
「目的は乙姫の救出です。それに、僕はセカンドミリオンの呪力を限りなく操れる第一人者。あなたの契約者です」
にやりと笑ったナイト=ノクターンは、右手を突き出して言った。
「久しぶりの戦闘ですね。わくわくしますよ」



 魔法のサンクチュアリ 07 -脱獄大作戦(後編)-



ここは頼んだ、といって、優輝とスカイは別の道を探そうと振り返る。
逃がさないつもりだったのだろう、男は一瞬で優輝たちの背後に移動した。
「“連結氷河”」
ナイトが呟いた。
男の前で水分が凍結する。それが男を突き刺そうとしたとき、男は一歩下がるが、さらにその場所で凍結が起こった。
「後でな、ナイト!」
優輝とスカイは走る。
「“Full winding”!」
「“Full winding”」
男の風とナイトの風が衝突する。
両者共に、反対方向へ吹き飛んだ。
「この先は、一歩たりとも進む事を許しません」



「ナイト、大丈夫かな……」
走りながら言う。
「あれで僕よりも強い。欠点を上げるとすれば、まだ一次進化を遂げていない点か」
「一次進化?」
「チャオは進化する。あいつは僕と同じ形態だった」
自由奔放に生きてきたお陰で、二人とも転生を繰り返しているが、と言った。
わけの分からない言葉だったが、まあ今ここで訊ねても仕方が無い。
第七層に到着した優輝は、そこがあまりにも狭くて驚いた。
牢屋なんて、ほとんどない。
中心に氷の結晶があるだけで、後はまわりに通路が一つだけ。
その通路に入った優輝は、叫んだ。
「乙姫え!」
「え?」
声が聞こえた。場所は分かった。
優輝とスカイは走って、その場所まで向かう。
やつれた姿の乙姫がいた。
大丈夫。生きている。
「予想通りだな。やっと来たか、セカンドミリオン」
「お前は……影の!」
隣の牢には影の男がいた。驚いた。
「それより、乙姫、助けに来た。今鍵を開けるから」
右手を鍵穴に当てて、優輝は乙姫の驚いた表情を見た。
「“大爆破”!」
爆音が響いた。
壁ごと崩壊して、二人しか存在しない牢屋が壊れる。
「けほっ……なにやってんの! こんな狭いところで!」
「い、いや、…乙姫! 怪我は!?」
慌てた様子で優輝が言うと、乙姫はぽろぽろと泣き出した。
え、と優輝が戸惑う。
「馬鹿あ……」
「女を泣かせるなよ、セカンドミリオン」
「ていうか、何でお前がここに」
苦笑いで訊ねる優輝。スカイはにやりと笑った。
「白石良介だったな。メシア=フォースの幹部が捕まるとは」
「スカイ=クラウディアか? これは、懐かしい顔だ」
「訳分からないんでやめてもらえますか」
優輝が言う。
「さて、俺は自由の身になった訳だが、残念ながらメシア=フォースはクビになってしまったようでね、これからどうしようも出来ないんだが」
「だったら何だよ。好きにすればいいだろ」
「お前、名は?」
「江口優輝」
淡々と優輝が答える。
そういえばこいつには結構いたぶられたよなあ…と思い出して、優輝は睨みつける。
スカイとこいつも面識があるらしいし、世の中は狭いものだ。
「優輝、お前はなぜここまで来た? 言っておくが、脱獄補助は大罪だ」
「乙姫を助けに来たに決まってる」
「面白いやつだ。女のためなら地獄まで、か」
良いだろう、といった白石は、にやりと笑った。
「悪いが優輝、増援が来るまでに逃げるぞ」
「その方が良いな」
スカイの提案に従って、乙姫をお姫様抱っこで抱える。
乙姫の顔は泣き顔だったが、一瞬で真っ赤になった。
恥辱で声まで出ないらしい。
「さあ、ナイトのところへ行こう」
「俺も手伝おう。せっかくの脱獄だ」
苦笑いで白石をにらみつけた優輝は、溜息を一つ。
「好きにしろよ」



魔力対魔力。
人間だからなのか、白いローブの男の方がやや優勢だった。
対してナイトは、少し劣勢だ。
「なぜそこまで人間に組する、“夜想”。私たちはお前たちの理想郷を作ろうとしているのだ」
「僕にはそう思えません。ただ自分勝手にやっているだけでしょう」
「ふん、やつの息子とは思えんな」
「あれを親だとは思いません」
ナイトの表情は苦しさに耐えているようにも、はたまた相手を嘲笑っているようにも見えた。
「だが、もう少しで我らメシア=フォースの増援が来る。そうなればダーク=カーリーもろとも、貴様ら全員藻屑となるのだ」
「さて、どうでしょうか」
「“Earth of break”!」
「“魔力吸収”!!」
優輝の大声で、杖から放たれた呪力そのものは、優輝の手に集中する事になる。
ナイトは振り向いた。
乙姫を抱えた優輝、いつしかの影の男、そしてスカイがいる。
「やっと来ましたか」
「“空間切断”!!」
優輝の叫び声が監獄に響く。
男の横を過ぎた無色透明の衝撃波が、背後で爆音を奏でた。
「外したあ……惜しかったんだけど」
「白石! 何をやっている! 加勢しろ!」
白石は笑ったまま無言。
男が叫ぼうとしたとき、ナイトが先手を取った。
「“転移”」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第302号
ページ番号
23 / 51
この作品について
タイトル
魔法のサンクチュアリ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第286号
最終掲載
週刊チャオ第332号
連載期間
約10ヵ月26日