06-3
リーダーとはどうやら優輝の事らしいので、照れながら優輝は言った。
「外では魔力が使えるから、魔力で正面突破する」
「門番は全てで二十三人だ。覚えておけ、リーダー」
へ? と優輝は呆けてから、スカイが出口に向かってとことこ歩いていくのを見る。
「何をしている。とっとと助け出すんだろう」
「あ、ああ」
良くも悪くも、スカイは良心旺盛のようだった。
「あれが監獄か」
町外れの湖に浮かぶ大きな神殿のような建物。
その前に、魔導師だろうか、鎧を身に付けた人間があらゆる方向を見張っている。
「どこから行きますか?」
「みんなは泳げると思うから、湖から行って欲しい。良いか?」
うなずくチャオたち。
「スカイと俺とナイトは、正面から突破する。出来るだけ魔力は使わないでくれ」
「どうして?」
チャオが訊ねると、優輝はにやりと笑った。
「温存しておきたいからさ」
こそこそとチャオたちは湖に向かい、水の中にもぐった。さすがに遠いのか、チャオの小さな姿は目に映らないらしい。
さて、と優輝は物陰から体を出す。
「どうするつもりだ」
スカイの質問に、優輝は親指を立ててガッツポーズを作った。
「空から奇襲をしかける」
ナイトとスカイを両肩に乗せた優輝は、思いっきり走った。
暗記した呪文(じゅぶん)が頭を交錯する。五日間で覚えた魔力のうちにある魔力を唱えた。
「“圧縮する風圧”!」
英名“Full winding”―乙姫の十八番である魔力を発動し、優輝の姿は上空に消えた。
「うわああああああああ」
悲鳴を上げながら落ちていく優輝。
声が聞こえたのだろう、門番らはきょろきょろと辺りを見回している。
その隙を狙って、優輝は唱える。
「“渦巻く火炎”!!」
炎の渦が空中から地面に向けて放たれ、門番たちは敵の居場所を確認する前に、湖へと放り投げられた。
「“圧縮する風圧”」
ゆるりと着地した優輝は、チャオたちの到着がピンポイントな事に何かの陰謀を感じつつ、監獄に体を向けた。
ナイトとスカイがほぼ同時に着地する。
「さあ、行くぞ」
チャオたちと共に、優輝は監獄へ突入した。
なにやら上が騒がしい。
見回りをしていた監獄の番は、上の様子を見てくると言って階段を上った。
それが命取りだった。
次の瞬間、ナイトの“ディレクト・コントラクティ”を食らった番は、思考を支配されてしまったのだ。
「考えましたね、人間に“ディレクト・コントラクティ”をするとは」
「それは、魔力じゃ無いらしいからな」
そうなのだった。
“コントラクティ”系統は、魔力とは別次元のものだった。
「さあ、魔力を封印している装置の場所まで案内してください」
こくりと頷いた番は、おぼつかない足取りで歩き出した。
優輝を先頭に、チャオたちはその後を追った。
魔力制御室。
そこに入る事が許されるのは、プリンセス=ウィッチを筆頭に、上級魔導師のみだった。
ゆえに、入るためにはかなりのセキュリティをクリアしなければならない。
だが、そのセキュリティである「センサー」は、チャオには反応しないのだ。
難なく魔力の制御を解いてしまった優輝一行は、次に第七層、乙姫の場所まで向かうと言い出した。
「そうも簡単にいかないようだ」
スカイがいった。
異変に気付いたらしい門番ら数名が後ろを封鎖している。
「こちら、No,12。侵入者だ。至急、増援を―」
「第一層まで急ぐぞ!」
優輝が叫ぶと、チャオたちは「おー」と叫んだ。
魔力を使えるという事を知っているか知っていないかが、勝負の明暗を分ける。
はっきりいって、門番らに勝ち目はなかった。
第一層といいつつ、優輝とナイト、スカイだけは引っかからないで第七層まで向かっていた。
チャオたちは無事だろうか。まあ、あのちゃっかりしている彼らの事だから大丈夫だと思う。
それにしても静かだ。ここなら喋っても気付かれないだろう。
と思ったら、スカイが突如優輝に訊ねてきた。
「君はなぜチャオを支配しようとしない? ほとんどの人間はチャオを生物として認識していないが、君は違う」
まるで何者だ貴様、といわれているような気分だった。
苦笑いして、優輝はぼそぼそと言う。
「俺、あんま支配とか主従関係とか、好きじゃないから」
「それだけで自らの安全を放棄するというのか?」
「他に方法があるのに、自分の努力を放棄する方がよっぽど駄目人間だし」
スカイはその言葉で全てを理解したらしい。
ナイトの無表情を見つめてから、にやりと笑った。
どうやら、自分の親友はかなり上出来な契約者をみつけたらしい、と考えて。
「そこまでだ、セカンドミリオン」
「は?」
見ると、魔法使いらしく白いローブに身を包んだ男が立っていた。
第七層はもうすぐだというのに。
「ダーク=カーリーの力を封じたというのに、よくやってくれたな」
男は、右手に等身ほどもある大きな杖を持って、言う。
「貴様は私が片付ける」