06-2

地獄と称される大監獄にて―
乙姫はその第七層、一番魔力の制御が出来にくいところへ幽閉されていた。
ひざを抱え込むように座っている。
どことなく痩せたように見えるのは、影のせいか。
寝巻き代わりのキャミソール姿に、優輝からもらった赤い宝石のネックレスをつけていた。
「調子はどうだ、ダーク=カーリー?」
「その名前はやめてって言ってるでしょう」
その声は、優輝を襲撃した白石、つまり影の男である。
「メシア=フォースのスパイ容疑だとな。我らの同志もやるものだ」
純粋に尊敬の言葉のようだったが、どこか憎憎しさを放っていた。
訝しがる乙姫。
「嬉しそうじゃないわね」
「やり口が汚い。魔導師なら正面から正々堂々と突破すべき。そう思わないか」
歯をそれだけ食いしばっているのか、ぎしぎしと音が聞こえる。
脱獄するにも、この様子では出来そうにない。
その言葉にだけは同意して、「そうね」とうなずく。
「最も、俺の予想だともう少しでここから出られそうだがな」
「え?」
意味が分からなかった。
せっかく幽閉に成功した自分を手放すようには思えない。
「ダーク=カーリーの幽閉を許すまじと思うやつの名を、俺は一人知っている」
加えて、と白石は続けた。
「そいつは、仮にどのような状況だろうとお前を助けようとするだろう」
ついその顔を浮かべて、白石は一人で大きく笑った。
その笑い声は、監獄中に響いた。



乙姫が投獄されてから早五日。
朝早くに、図書室で本を読み漁る影が二つあった。
「ナイト、いい加減疲れたんだけど」
「まだ五日です。僕の練習はきついとあれだけ言ったにも関わらず、やるといったのはあなたでしょう?」
悪戯っぽく言った。
ナイト=ノクターンの修行方法とはいわゆる簡単で、知識をつませるというものだった。
経験だけならば、メシア=フォースの幹部らしき敵と対等に戦い、あれだけの敵に囲まれて冷静でいられるほどの天才といえよう。
ただ、優輝には知識が足りなさ過ぎた。
「頑張らないと、プリンセス=ウィッチが帰ってきたときに叱られますよ」
「はいはい」
といって、本を再び読み漁る。
その資料の中に、一つ、優輝は歴史書のようなものを見つけた。
「なんだこりゃ? おいナイト、何か関係ないものが混じってる」
「そうでしたか? 隅にでも退けて置いてください」
言われつつも、何となしにその本をめくってみた。
そのページを開いて、優輝は笑みが浮かんでくるのを自覚した。
「ナイト」
すっかり活気付いた笑みで、優輝は言い放つ。
「監獄は、魔力を使えないし魔力で破る事も出来ない、だったよな」
「そのはずです」
「人数が必要だ。ナイト、ガーデンに行くぞ」
首をかしげて、“保存機(コンサーヴァス)”を疑問符に変えるナイト。
本を持って、優輝は立ち上がった。



ガーデンに到着した優輝は、チャオに呼びかけた。
「ここにいるみんな! ちょっと話を聞いてくれ!」
木から顔を覗かせるもの、岩場の影から姿を見せるものが、優輝の顔を見て笑顔になる。
ガーデンのチャオほぼ全員が優輝の元へむかってきた。
「俺はこれから投獄された乙姫…プリンセス=ウィッチを助けに行こうと思う。だけど、人間がたくさんで移動したんじゃ怪しまれる」
本当の理由はそれだけではないのだが……。
「あなたたちの助けが必要です」
ナイトが言うと、迷うすきも見せず、チャオたちはうなずいた。
なんにしても、チャオたちは乙姫に助けられたあの一連の事件―影の事件を覚えていたのだ。
「でも、僕たちで力になれるかなあ」
「スカイなら」
「でもスカイは」
と声がぼそぼそ聞こえてきた。
優輝は首をかしげて、スカイって? と訊ねる。
「ガーデンの最強とうたわれてるチャオだよ。でも、スカイは気難しいから……」
「スカイはどこですか?」
ナイトが珍しくうきうきした様子で尋ねると、岩場にかかる滝の奥の方からチャオが一匹、とことこやって来た。
黒いチャオだった。頭のとげには青いラインが鋭くはしっている。
“保存機(コンサーヴァス)”はとげとげしく、触ったら痛そうだった。
「お久しぶりです、スカイ=クラウディア」
「ナイト=ノクターンか。確かに久しぶりではあるな」
はき捨てるように、そのチャオは笑う。
かなり様になっていた。
「話は聞いていたが、僕はプリンセス=ウィッチを助ける義理は無い」
「そういわずに頼む! 今は一人でも多く人手がほしいんだ!」
チャオを一匹と数えない、そして人手と言い放つ優輝に不審げな目線を向けるスカイ。
「何者だ?」
「江口優輝。人間界から来たけど……セカンドミリオンとか言われてる」
品定めするように優輝を見るスカイは、訝しげな視線を優輝に向けた。
なぜそこまでプリンセス=ウィッチを助けようとする、といいたいのだろう。
そこまで理解できる自分に首をかしげて、優輝はその言葉を口にする。
「乙姫は俺を助けてくれたんだ。あいつがスパイな訳が無い。だから助けたい」
「ナイト=ノクターン、お前の契約者か?」
「そうです」
誇るようにナイトは言った。
ふっと笑ってスカイはうなずく。
「良いだろう。ただし、契約は控えさせてもらう」
「分かった。ありがとう」
優輝は笑いながら言った。
「リーダー! どうやって監獄の門番を突破するんですか!?」
チャオたちの中から声がする。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第301号&チャオ生誕9周年記念号
ページ番号
21 / 51
この作品について
タイトル
魔法のサンクチュアリ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第286号
最終掲載
週刊チャオ第332号
連載期間
約10ヵ月26日