05-2

翌朝。
インターホンの音で目が覚めた優輝は、起きてすぐ玄関をあけた。
「遅いわね。早く支度しなさい」
「今何時?」
乙姫がいた。一緒に行動する、といったからには本当に一緒に行動するんだろう。
朝から。しかもまだ7時。
「まだ7時じゃん」
「ユウキの起床が遅いのです」
ナイトが指摘すると、優輝はとりあえず上がってと乙姫を迎え入れた。
小さくお邪魔します、という声がして、優輝はにやにやと笑った。
「なによ?」
「いや、意外だったから」
目を逸らして口を尖らせる乙姫。
「朝飯は?」
「食べてないわよ」
「何か食べる?」
日ごろ何かと世話になっている乙姫に朝食ぐらいご馳走しようと台所を漁った。
「なんでもいいわ」
「了解」
なんでもいいといわれたのでスクランブルベーコンエッグとご飯を用意した。
かなり手際が良かったためか、乙姫が尊敬のまなざしを向ける。
「すごいわね」
「簡単な料理なら出来るよ」
そういって朝食を次々と平らげる。
ナイトは意味深な視線を乙姫に送っていた。
「何か用?」
「乙姫は確か、料理が作れなかった気がしましたが」
「っ、仕方ないじゃない。やったことないんだもん」
やけになったのか、真っ赤な顔で朝食を食べていく。
本当に、変な女性だ。



学校に着くと、人一人いなかった。
あれ、デジャヴ? と思ったのもつかの間、次々と生徒が帰ってくる。
「契約期だって言ったでしょう。今日は出席とって終わり」
「ああ、そっか。俺、契約してるもんな」
ナイトを見る。この水色っぽくなってしまったチャオは読書を続けていた。
「出席取ったら早めに帰るわよ」
「了解、っと」



まさか襲撃されるわけが無い―そう高を括っていた優輝は、完全に油断していた。
出席を取り終えてから、生徒の目を避けるようにして、二人と一匹は乙姫の部屋に向かう事にしたのだが、優輝は一度家に帰る、と言い出した。
「ひとりになるのは危ないわよ」
「大丈夫大丈夫。すぐ戻るよ」
たまには乙姫にプレゼントでも贈ろうと、こっそり抜け出す優輝。
そう、ナイトはこのとき、優輝に着いていかなかった。
それを後悔するとも知らずに。



家に到着した優輝は、乙姫には何を贈ればいいのか考えながら家を飛び出した。
近くの商店に入ってから、こちらの金銭の単位が円の事に安心して、財布の中身を確認する。
予算二千円。
アクセサリーとかネックレスで良いだろ、と思った優輝は、何が乙姫に似合うか考えた。
結論、乙姫にはどっちかというと栢山さんみたいな大剣の方が似合うと思った。
…というのは冗談で、優輝は赤い宝石の埋め込まれたネックレスを買うと、店員に差し出す。
二千三十五円。
何とか足りた。
袋につめてもらい、さっそく手渡そうと街道を走る。
ところが、その足がぴたりと止まった。
あれ? ―と思ったときには遅かった。
「“雷光一閃”」
体中に電撃が奔った。地面に倒れ伏せる。
チャオが二匹、その白装束の男についていた。
「こいつですね、白石さん」
「ああ、だが弄るな。無闇に触れると呪力が暴発する可能性もある。ここはこいつの呪力を一時的に封じてから―と、そんな暇は無いようだ」
驚く事に、優輝が立ち上がったのだった。
やせ我慢だった。
何とか立ち上がってみただけだった。
それでも、優輝はしびれる身体を何とか動かそうともがいた。
「覚えているか、餓鬼」
影の男だった。一瞬でそれが分かる。
「屈辱だろう。さあ、おとなしく投降しろ」
「“魔力吸「“行動停止”」
優輝の動きが止まった。
「投降するなら口を閉じろ。そうすれば魔力を解いてやる」
悔しい。
ふざけんな、何でこんなやつに、と思いつつも、力の差を感じた。
自分は全くの初心者だった。
相手の行動を読まずに行動していただけだった。
結果、逆手を取られた。
だが―と、優輝は袋を見る。
これを届けなければ二千円が無駄になってしまう。
いいか、二千円は大事なんだ。
「誰が投降するか」
優輝の体に電撃が奔る。
立っていられないが、固定されているためにどうにも出来ない。
「俺の味わった屈辱、お前に受けさせてやろうか」
二匹のチャオが男と目を合わせた。
優輝は俗にいう「最後の力を振り絞って」、チャオに向けて意識を集中させる。
出来るはずだ。
「“キャンセル・コントラクティ”!」
それが優輝の意識があった最後だった。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第293号
ページ番号
18 / 51
この作品について
タイトル
魔法のサンクチュアリ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第286号
最終掲載
週刊チャオ第332号
連載期間
約10ヵ月26日