05-1
「ユウキにぴったりの魔力です」
ナイトはそう言って、ぴたりと魔力の発動を止めた。
これが、俺にぴったり……?
もちろん本に書かれているのは英語であり、部分部分は分かるものの、内容の全てを理解できるわけではない。
ただし、ナイトの不可解な魔力によって、詠唱すべき呪文だけは理解できた。
「さあ、唱えてください」
何だか懐かしい感じがした。
前にも、こんな事があったような気がした。
そして、優輝は唱える。
魔法のサンクチュアリ 05 -学年一斉契約期-
「“魔力吸収”」
淡々と読み上げる。
頭の中に、呪力の仕組みが流れ込んできた。
言葉に出来ない―それを説明する事のできる言葉そのものが無い。
だが、分かった。
刺客がナイトの魔力が止まった隙に、目の色を変えて呪文を唱える。
打ち合わせたかのように、水の連撃が放たれた。間切れない同時刻発動だった。
優輝は集中する。
呪力、全てを。
自分のものに。
水が優輝の右手に誘導され、優輝の右手は球状の水に覆われた。
呆然と自分の手を見る。
「ユウキ、その水を」
「返す」
水の球体を刺客へ投げ返すと、波紋のように内側から回りへ広がった。
刺客は一斉に自らの魔力を受けて、塔の上から落ちていった。
「“Action stop”」
工藤の声が小さく聞こえて、優輝は安堵の溜息をつく。
終わった。
「こら! 優輝! 何やってんの!」
一段落ついてから、優輝と乙姫は社長室…もとい乙姫の部屋へと戻った。
ナイトはてけてけと後ろから付いて来る。もはやこの状況が当然のようになりつつある。
「今度勝手な行動したら許さないからね」
拗ねた表情、いや、少し寂しげな、よく分からない表情の乙姫に優輝は戸惑いつつうなずく。
「それにしても、ナイト、あなたどこまで本気なの?」
「本気とは?」
「いつも他人事に首を突っ込まないくせに、“クロス・コントラクティ”なんかして。それに加えて、さっきの塔の上での攻防」
ナイトと会ったのがつい最近のため、優輝は昔のナイトというものをあまり知らなかった。
それも当然といえる。
こちらに来てから襲撃され、契約し、転校し、騒がれ、事件があり、そして襲撃。
他愛も無い世間話をしている暇すら無い。
「僕はやりたいようにやっているだけです。元から僕の持つ呪力は大した事無かったですから、ユウキと契約してより可能性が広がりました」
「目的とか、何にもないわけ?」
「自分の力が試せれば構いません。それよりも、僕はユウキと共にある事を望みます」
何だか優輝は照れくさかった。
ナイトには恥じらいと言うものが無いのだろうか。
「ユウキを守るのは契約者の僕の義務でもあります。そうですね、ユウキのような人物は初めてですから、興味があります」
「…まあ、今までチャオの存在がどうのこうの言う人なんていなかったけど」
照れたように乙姫が優輝を見る。わけが分からず、優輝は首をかしげた。
そこに乱入者が現れる。
「お邪魔したかな、プリンセス」
「何やってたのよ」
「僕の契約者に相応しいチャオというものが見付からないものでね」
それは遠まわしに自分を褒めているのだろうか。
最も、強いのだから当然だろうが、優輝はこの工藤の強さとすごさを全く知らない。
「“クロス・コントラクティ”…いまだ無敗の君を負かすには、それが必要だろうから」
好きにしろ、と言いたげな視線で優輝は工藤を見る。
「そろそろメシア=フォースも動いてくる。注意した方が良いよ、江口」
そういって、去ってしまった。
相変わらず言葉の真意が掴めないやつだ。
「優輝、明日は第一学年一斉の契約期だから容赦しておかないとだめよ」
「なんで?」
くつろぎながら、優輝はナイトの本を盗み見ていた。
「チャオと契約すると、呪力を使う心配がいらないでしょう。あなたがどのくらい強いのか、あなたがどんな人物なのか、何を使うのか、好奇心で不意打ちというのもあると思うわ」
「変なやつらだな」
「それに紛れて襲撃もあるかもしれないし」
「困ったよ」
といいつつ、優輝はあまり心配してなかった。
要は、自分の力を過信していたのである。それもそのはずだった。
「分かってる?」
「大丈夫だよ」
「…もう。とにかく、明日は私と行動する事! 良いわね!」
妙に顔を近づけて言ってくる。
何が何だか分からないうちに、優輝はうなずいていた。
ナイトは本を読みながら、にやりと笑った。