03-3

ナイトが隣で気持ちよさそうに寝てるのを見て、さあもう一度寝るかと目を瞑ると、
「いつまで寝てるつもりですか」
と声がかかった。
「学校が終わるまで」
「登校しますよ。さあ、早く準備してください」
「仕方ないなあ……」
ふざけた態度を取りつつ、優輝は男の言葉を考えていた。
他の生き物を犠牲にしているのは、自分も同じだ。
だとしたら、チャオを支配するのは当然のことなのか。
所詮、俺も同じなのか。



遅刻してくるのは緊張する。
かなり緊張する。
というわけで優輝はナイトとともに教室の前で立ち往生していた。
意を決して、ドアに手をかける。
視線が一気に優輝に向けられ―無かった。
誰もいない。
あれ……?
「ナイト、今日って月曜日…だよな」
「何言ってるんですか」
次のナイトの言葉で、優輝は驚愕した。
「今日は日曜日ですよ」
…はい?
「いや、だって昨日、ほら、昨日が日曜日で、ナイトたちを助けたじゃん」
「何の話ですか? とりあえず何かあったのかもしれませんから、プリンセス=ウィッチのもとへ向かいましょう」
何の話ですか、というのはこっちのセリフだ、そう思いながら、優輝はナイトの後を追った。
何かがおかしい。
それが何なのか、優輝にはまだ分からなかった。



「おかしいですね」
乙姫は不在だった。というか、朝から人という人を見ていない気がする。
「ナイト」
優輝は不思議に思った。
「昨日は、何をしていた」
「昨日ですか? 昨日はあなたが転校して来た日ではないですか」
それはそうだ。だが……。
土曜日の夜にナイトは連れ去られてしまったはずだ。
詳しい事情は分からないが、ナイトは日曜日の朝にはいなかった。
はっとして、優輝はポケットを探ってみた。
本が無い。
入れておいたはずの本がない。
「ナイト、昨日俺は確かにいなくなったナイトたちを助けたんだ」
「?」
首を傾げるナイト。
「乙姫と、そこには栢山さんもいた。…と思う」
「栢山? …記憶が正しければ、そんな人物は…いや、栢山創一ですか?」
「そうだ。栢山創一…だったはず」
「会った事はありません。ですが、栢山創一は有名です」
強いですから、と続けた。
おかしい。おかしすぎる。
昨日は帰った後、すぐ眠りについた。だとすれば、何だ。
何が起こった。
眠っている間に何かが起こったのか?
「ユウキ?」
「ナイト、話がある」



優輝は昨日の出来事をナイトに念入りに語った。
何が起こっているのか、理解できなかったからだ。
話が終わると、ナイトは少し考えたが、頭上の“保存機(コンサーヴァス)”が疑問を表したという事はナイトにも良く分からないのだろう。
「確かに、ここには人の気配が感じられません」
「どうなってるんだ?」
「……便宜上、影の男を“敵”とすると、その敵が行った事なのか、それともなにかの後遺症なのか…不明です」
何だか突然不安になってきた。
「問題は、なぜ僕とあなただけが存在するか、ということです」
「そうだ、他に人がいるかもしれない。探しに行こう!」
言うが早いか、優輝は走る。
ナイトはその後姿を、ゆっくりと付いて行った。



一時間くらい経ったころ。
優輝とナイトは自宅まで戻ってきていた。
「…腹減ったぁ」
机に突っ伏す優輝。
「まさか誰もいないとは思いませんでした。事態は深刻のようですね」
深刻な表情、といってもあまり変わらないが、ナイトは思案顔である。
空腹が極限にまで達したのか、優輝は唐突に立ち上がると、台所に向かった。
三十分もしないうちにスパゲティーを完成させると、急いで食べる。
「腹が減っては戦が出来ぬ、と言うしな」
「何ですか、それは」
「諺だ。とにかく、どうにかするしかないんだからどうにかする」
スパゲティで体力が回復したのか、優輝は立ち上がった。
「塔の上に向かおう」
そこが昨日、戦場になった場所だから。



「まだ着かないのか……」
螺旋階段を上って行くが、一向に着きそうな気配が無い。
ナイトはというと、飛んでいる。
「疲れた……ちょっと休憩」
「だらしがないですね。魔力のひとつでも使えばよいでしょう」
「本無いから呪文が分からないんだよー……」
仕方ないですね、というと、ナイトはひとりで降りて行ってしまった。
せめて水分くらい持ってくるんだった。
壁に寄りかかっている目を瞑ると、足音が聞こえた。
「ナイト? ずいぶん早かった、な……」
別人だった。
まず目に入ったのは、ぱっちりとした目に、橙色にも見える瞳の色。
乙姫とも負けず劣らない肌。
ヘアバンドを付けながらも、癖一つ無い長い髪。
それよりも驚くべきなのは、背中に羽が生えていた。
真っ白な羽が生えていた。
「あなた、江口くん?」
「そ、そそそそそそうです」
相変わらず綺麗な子の前だと緊張するなあ、などと考えつつ、
「えと、その」
無茶苦茶可愛い。
彼女の回りだけ光っているようだ。
「こんにちは」
笑顔は天使みたいだった。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第289号
ページ番号
13 / 51
この作品について
タイトル
魔法のサンクチュアリ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第286号
最終掲載
週刊チャオ第332号
連載期間
約10ヵ月26日