02-3

「栢山さん! どう戦えばいいんですか! 俺、そんなこと出来ません!」
栢山のあとを追うだけの優輝は、思いっきり叫んだ。
「ふふふふ! 根性があれば何とかできる! 優輝、お前の名前を街中に轟かせ! 聞こえないやつはいねえってほど叫ぶんだ!」
「そんな無茶な!」
影は見る間にどんどん減っていく。
本を持っている優輝は、どうすれば、と一生懸命に考えていた。
そうだ―中枢が分からないなら、と、名案が思いつく。
本をぱらぱらとめくって、水氷属性の一覧を見つけた。
「栢山さん! その影取っといて!」
「ああっ!?」
「えっと、こほん! “全体凍結”!!」
影に向けて放つ。
冷気は影を伝って、影の内部へと侵入した。
そして、影を操る本体へ、地中を通って中枢へ冷気が向かう。
中央政府の上空、屋上の塔あたりが輝いた。
「あそこです、栢山さん!」
「おお! すげえな! どうやったんだ!」
「影は物に当たっていないと出来ません。つまり、影は空中に出来ないんです。しかも、太陽の当たる範囲しか出来ない。どういう事かと言うと、中枢はこの街を見渡せる場所にいて、なおかつ物に触れていなければならない! 影と中枢がつながっているなら、影から凍結させれば中枢も凍結できます!」
「なんだか良く分からねえが、とにかく、あれ目指すぞ!」
「はいっ!」
元気よく返事を返したところで、上から人が降って来た。
風とともに着地する。女性だった。
「乙姫!?」
「もうっ、あんた何やってんの!? 勝手に行動したら―って」
乙姫は栢山と目を合わせると、どんどん顔が歪んでいく。
「よう、乙姫ちゃん! 相変わらず美人だな!」
「栢山! なんであんたがここにいんの!?」
「いやあ、うちのばあさんが毎度ながら騒ぎを聞きつけてな。行って来いだとよ」
影の塊を目指しながら走っているためか、かなり途切れ途切れに叫んでいる。
乙姫の服装はキャミソールだった。せめて着替えてから来いよ、と優輝は思う。
「で、場所は?」
「塔の天辺」
完全に優輝は蚊帳の外である。
「分かったわ。あんたは後から来なさい。行くわよ、優輝っ!」
「え、俺?」
突然右手首を掴まれて、ああ冷たくて柔らかい手だな、と思っているうちに自分の体が無重力間に放り出された。
服が風になびく。目の前にひらひらとしたキャミソールの裾が目に毒だ。
「“Full winding”」
風が音を立てて優輝と乙姫を空中へ撃つ。
呆然としているうちに塔の近くまでやって来た。影の球体が目前に迫る。
再び乙姫が叫ぶ。
「“Wind cutter”」
球体が真っ二つに避けて、乙姫ごと優輝は空中で三回転、乙姫が華麗に着地すると優輝はその手に引かれて何とか着地できた。
目が回る……。
そのうちに、目がだいぶ慣れてきた。影の球体は切断面から割れるように裂けていく。
ところが、影は分裂した。
「“Wind aria-open”」
分裂した影はある一定の空間で円状に回転し始める。
これを…全て乙姫がやっているのか。
「…というか、ナイトたちはどこなんだ」
「影が帰ってこなかった事で、間違いなく影の主が動くはずよ。そいつから聞き出すわ」
「さすがはダーク=カーリー。一筋縄では行かないようだ」
声と同時に影が集結する。そこには、一人の男が立っていた。
いや、性別は定かではない。声からすれば、男である、というだけだ。
「そんなセンスの無い名前で呼んで欲しくないわね」
「ならば改めよう、プリンセス=ウィッチ」
月明かりにわずか照らされたその姿は、白かった。
悪役なら黒装束だろう、という先入観がある優輝は、呆気に取られる。
「連れ去ったチャオたちはどこ?」
「やつらが持つ呪力はすでに奪った。用済みの入れ物は返して欲しければくれてやるが?」
「用済みの入れ物?」
優輝の目つきが変わる。
「お前、用済みの入れ物は無いだろ。あいつらは生きてるんだぞ。入れ物じゃない」
「生意気な餓鬼だな。やつらは俺にとっては道具でしかない。呪力を蓄える入れ物―」
「“行動停止”ぃ!!」
左手の人差し指を男に突き刺す。
男の身動きが止まった。
「優輝!」
「ふざけんな! 生き物は道具じゃない。お前の目的のために犠牲にして良いものじゃ無い!」
「くだらない事を論じるな」
膜が割れるように、男の動きが再びよみがえった。
「所詮、生き物は支配するかされるか。何をもって正しいとする?食料でさえ人間が他の生き物を犠牲にしていると言えよう。それをお前は別だと言うか?」
「っ…」
優輝が言いよどむ。
違う、それは違うと言いたかった。だが、確かに一理ある発言である。
「気に食わん。今ここで、お前を抹殺して置く」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第288号
ページ番号
10 / 51
この作品について
タイトル
魔法のサンクチュアリ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第286号
最終掲載
週刊チャオ第332号
連載期間
約10ヵ月26日