02-2

どうしようか。
もし、もしナイトが強いやつらに捕らえられていて、それで俺には何が出来る?
勢いで借りてきた本。
読みながら戦うか? 不可能に近い。
戦う……そうだ、つまり、ナイトを取り返せば戦う必要は無いんだ。
それに、人を殺すなんて事、俺には出来ない。
でも、どうやって取り返す?
…やめよう。
夜空を見ながら、優輝は風呂にでも入ろうかと考えた。
時計を見た。
11時わずか過ぎ―……。
何か起こるなら、ここらかな、と、優輝は漠然と思う。
突然声が聞こえた。
―助けて。
―誰か、助けて。
「ナイト…?」
優輝は本を持ったまま、家を飛び出した。



すっかり暗くなった街道。
月明かりだけが頼りの街道に、何かがうごめいている。
影、だ。
「なんだあれ」
その影が、優輝を向いた―ように見えた。
いつの間にか、影が優輝を取り囲む。
まずい、と思ったときには、すでに優輝に魔力を唱える隙は無かった。
「大丈夫か、少年」
ぶわっと、影が吹き飛んだ。
月明かりに照らされた男―それが目に映る。
身に余るほどの大きな剣を右手に持っていた。
「だ、大丈夫です。ありがとうございます」
「ほう、影の影響を受けないのか。お前…、何者だ?」
にやりと悪戯気味に笑う。
優輝はえっと、と頭をかいて、
「江口優輝です」
と答えた。
「ユウキか。良くも悪くも無い名前だ。勇ましい気、でユウキかな?」
「優しく輝く、で優輝です」
「そうか、優輝、か」
よく見ると、その男は鎧を身に付けていた。
「優輝、なぜお前はこんな時間に外へ出た?」
「っ、俺のチャオが昨晩からいなくなったらしいんです。もしかすると、この影たちの仕業かもしれません」
「はっはっは! 良い洞察力だ」
すると男は優輝の頭に手を置き、右手で大剣を月に向けた。
「優輝! 男には戦わねばならないときがある!」
「それが今なんですか?」
「いや、常にだ!」
それじゃあさっきの言葉は文章的におかしいのではないか、と首をかしげる優輝。
「男は剣を持ってこそ男だ! 魔力でちまちま戦うのは男らしくない!」
「はあ……」
「そこで優輝! お前はこの騒ぎを解決して、チャオを助けたい、そうだな?」
うなずく優輝。
「よし、この俺に任せておけ。だからお前は―」
ひゅっ―
影の塊みたいなものが、男の頬をかすめる。
男が振り向こうとしたとき、優輝の目に、黒い弾丸のようなものが見えた。
このままでは当たる―そう思った。
「“行動停止”っ!」
何かで押さえつけたように動かなくなる黒い弾丸。
男は驚いて、勇気を見つめる。
「…お前は、いったい…何者だ?」
「江口、優輝です」
優輝は言葉を選んで言う。
「人間界から来ました、セカンドミリオン、です」



「ほう、お前が」
なかなか筋がある、と、男は言った。
「いいか、優輝。男は格好をつけてなんぼだ。普段はぼさっとしていて、いざっていう時にびしっと決める! これが男の理想だ!」
一人で盛り上がっている。
「これから俺は影の中枢を叩く。そこにチャオがいるはずだ」
「中枢? …って、どこですか」
「それを探す。だが、その前に街中の影を一匹ずつ行動停止させなければならん。…協力してくれるな」
優輝はしっかりと頷いた。
「俺は栢山創一! 影どもめ、この街を徘徊するんは百年早い!!」
そういって、右手の大剣を振り上げる。
このテンションに付いて行けと言うのか。もう色んな意味でいっぱいの優輝には出来そうになかった。
「お前に戦い方を教えてやろう、優輝」
「俺に、ですか?」
「ああそうだ。戦いとは常に男の勝負! 不意打ちなんてもっての外! 真っ向勝負が基本中の基本だ!」
その大声は街に虚しく響くだけである。
影がどこにいるか分からなければ意味が無い。
「見ていろ、優輝」
男は右手の大剣を大きく振り上げた。
大剣の先に閃光が集中していく。優輝は次第に口を開けて、その姿を見つめていた。
「“パーフェクトサンダー・スゥトライク”!!」
どう考えても呪文ではないだろう、という叫びでは合ったが、剣先からは閃光が拡散し、飛び散る。
街中の影をピンポイントで的中させていくと、その部分が輝き始めた。
「これで場所は掴んだ! いくぞ、優輝!」
「はい!」
いつの間にか優輝は、笑っていた。



「光?」
壁によりかかって外を見ていた乙姫は、光が街中を駆け巡ったのに気が付いた。
なんだろう、と考えていると、ところどころで光が消えていく。
まさか、とは思うが……。
「あいつ、何やってんの!? もう、ほんとに!」
優輝ともう一人の謎の男を見つけた乙姫は、即座に政府の壁から飛び降りた。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第288号
ページ番号
9 / 51
この作品について
タイトル
魔法のサンクチュアリ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第286号
最終掲載
週刊チャオ第332号
連載期間
約10ヵ月26日