01-3

「あの、いつもこんな感じなんですか?」
生徒の事を言ったつもりだったが、
「いつもこんなに食べるわけ無いでしょう!?」
素っ頓狂な答えが返ってきた。
「いや違くて、この周りの視線というか」
「あっ、そ、そっちね」
少し顔を赤らめて、咳払いを一つ。
「私はそれなりの地位にいるから仕方ないわよ」
「ああ、偉いんですか」
「ユウキ、プリンセス=ウィッチは魔法界の頂点に君臨する女性ですよ。そのため、様々な人物から恐れられています。魔力の才覚は天下一品。通称の多さと強靭さでは世界一です」
「あなた、喧嘩売ってるのかしら」
青筋が浮き出ているようだ。
思わず息を呑んだ優輝は、話題を変えようと考える。
「乙姫さんって、年いくつなんですか?」
「私?」
「他に乙姫さんはいませんけど」
「私、は…16よ。あなたと同い年」
同い年というところに驚きはしなかったが、何だか見た目より子供っぽい人だった。
そういえば昨日、チャオに嫌われているとか言っていたけど…というのを言い出そうと思って、本人が気にしているのかを確かめるにはどうしたらと考え込む優輝であった。
「あなたは、私のこと、怖がったりしないのね」
「怖がるって、…普通に綺麗な女の子を怖がる性癖は持ち合わせてない」
それきり乙姫は顔を真っ赤にして、テーブルに置かれたメニューのようなものを見始めた。
さかさまのままで。
「不思議ですね。プリンセス=ウィッチが人間界の初心者相手にも関わらず、それほど無防備な姿を見せるなど」
「黙ってなさい」
「弱点、見つけましたよ」
にやりと笑うナイト。乙姫の表情には拗ねているような、照れているような、微妙な表情があった。
届けられたカツカレーとハンバーグ定食(ご飯大盛り)をやけになって食べる様子を見て、この人とは親しくなれそうだな、と優輝は思った。
ちなみに醤油ラーメンは微妙な味がした。
さすが別世界。



教室に戻ると、好奇心旺盛な生徒たちが優輝を質問攻めにするため待ち構えていた。
「江口くん! 八島さんとなんであんなに普通に会話が出来るの!?」
「というかすごく親しそうだったじゃん!」
「すごいな江口! どうやって八島さんの心を奪ったのか説明ぐほおっ!」
「いや、俺は別に」
半笑いしておく。
ナイトは魔法界で一番偉い美少女、プリンセス=ウィッチこと、八島乙姫の心境を察していた。
詰まるところ、あの少女は―
自分に興味を持ってくれる、自分に目を向けてくれる、自分を叱ってくれる、そういった人間同士の付き合いをしてくれる江口優輝に惚れてしまったんだろう。
こんなことをいったら頭の上の“保存機”を持っていかれるかもしれないけれど。
「江口優輝、とは君の事かな」
背後から突然声がかかった。
眼鏡をかけたインテリそうな男子が、そこに立っていた。
「そうだけど」
「“クロス・コントラクティ”をご教授願いたい」
「いや、俺に言うよりあいつに訊いた方が早いよ」
ナイトを指差して言う。
ふむ、と一瞬考えたらしいそいつは、ナイトに向き直って言った。
「“クロス・コントラクティ”とは、いわゆるチャオと人間の完全な同期だね」
「そうです。具体的には、感情と精神を共通認識する効果を持ちます」
「そしてそれは、一度契約してしまったら二度と外せない」
「合ってます」
「では―」
眼鏡をついと上げて、インテリそうな男子は言った。
「チャオと“クロス・コントラクティ”する方法を教えてくれ」
「意識を合わせるだけで構いません」
「なるほど。分かった。感謝するよ」
そしてもう一度優輝に向き直ると、今度は微笑して、
「江口、で良いかな」
「好きに呼んでくれ」
「君は200万の呪力を持ちながらほとんどの魔力を使う事が出来ない。だが、君の魔力はどこか違って見える」
何が言いたいんだ、と考えた優輝だったが、彼の次の言葉を待った。
その男子生徒は眼鏡のフレームを押さえて、にやりと笑った。
「君は、どうやって魔力を使っているんだ?」
どうやって?
…そういわれてみると良く分からなかった。ただ単に、そう、叫んでみただけだ。
「天才とはそういう者なのか、僕にはいまだ分からないが……しばらく経てば第一学年一斉の契約イベントがある。期末考査は来週だ。…君の成績を楽しみにさせてもらうとしよう」
はて、そういうなり男子生徒は元の席についてしまった。
結局何が言いたかったのだろう。
疑問と共にナイトを見ると、ナイトは首をかしげて、ついで“保存機”を疑問符にしてくれた。
分かりやすくて良い。



転校初日は波乱万丈で、あまり落ち着いた一日ではなかった。
だが、これはまだ序の口である事を、翌日、優輝は身をもって自覚する事になる。

7月1日(土) 晴れ

このページについて
掲載号
週刊チャオ第287号
ページ番号
7 / 51
この作品について
タイトル
魔法のサンクチュアリ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第286号
最終掲載
週刊チャオ第332号
連載期間
約10ヵ月26日