01-2

再度、本庄は両手を握り締めた。
対して優輝は、昨日のナイトの言葉を思い出す。
「「“結集の火炎”!!」」
二人の声が重なった。
二つの炎は弾けて消えて、本庄はにやっと笑う。
「上等じゃねえか。この俺とタメ張るなんてなあ!」
「“行動停止”」
本庄は止まった。あの時の優輝のように。
呼吸は出来るが、口の開閉は出来ない。呂律も回らない。
見よう見まねでやってみた、という優輝の表情は「あれ?」という感じである。
「さすがですね、ユウキ」
「へへえ! ひゃにひやはる!!」
はっと気付いた優輝は、すぐ倒れ伏せたチャオの元に向かった。
目をぱちくりさせている。
「あれ、僕は……」
「大丈夫か? ナイト、こういう場合って後遺症とか無いよな?」
「ありませんよ」
「良かった」
にこりと笑った。
その優輝の姿に、その場にいた全員が心を打たれた事は言うまでもなかった。
無論、本庄を除いてだが。
「ほはあ! はっはとほけえええええ!!」
ちなみに、優輝は解き方をしらなかった。



一時間目が始まる前に、すさまじい勢いで教室を元の形に戻すと、何事もなかったように生徒は席に着いた。
さきほど小耳に挟んだところ、どうやらチャオと契約しているのは高校一年生レベルだと少数らしい。
つまり、ただでさえ希少な“クロス・コントラクティ”に加えて、高校一年生にしてチャオと契約している男としてさらに有名度を増した優輝だった。
「仲間が無事でしたから、良かったとしましょう」
ついさっき、気絶したチャオをガーデンまで送り届けてきたナイトが言う。
「なあ、ナイト。俺さ、200万の呪力を持ってるって、本当なのか?」
「噂ではそうなってます。本当かどうかは、プリンセス=ウィッチに訊ねれば分かるでしょう」
ただ、とナイトは続ける。
「あなたは只者には見えません。熾天使セラフィム・ロードや百夜のオメテオトルとも並ぶ天才児とも思えます」
「全然分からない」
「それほどすごい才能を持っているかもしれないって事です」
自分にまさかそんなに凄いものがあるとは意外だなあ、と気楽に考える優輝。
そんな契約者の姿に、小さく溜息をついたナイトは、黙って読書を続けた。
魔力、か。
自由自在に使えたりしたら、面白いんだろうなあ……。



四時間目までしっかりと授業を受けた優輝だったが、何一つ理解できなかった。
現在は7月の1日である。
三か月分の遅れを取り戻すには時間が足りなかった。
昼休みなのか、徐々に生徒たちが弁当を取り出したり、教室から出て行ったりしている。
そういえばと、優輝は思い出した。
昼飯持って来てない。
昨日は晩飯を自分で作ったが、昼飯をすっかり忘れていた。
どうしよう、と思ったところで、何やら廊下の方が騒がしいのに気が付く。
「なんだ?」
「分かりませんね」
ナイトも顔を上げて廊下を見る。
透き通るよなソプラノが、廊下に響いた。
「江口優輝は? 出てらっしゃい」
「乙姫さん?」
教室の中から返事をすると、乙姫はずかずかと教室に入ってきた。
セーラー服も似合うなあ……。
好奇と不安の視線で、優輝を凝視する生徒たち。
「お昼ごはんは?」
「作るの忘れてました」
「そんなところだろうと思ったわよ」
優輝を睨む。
「行きましょ」
「どこに?」
「食堂っ」
即答だった。
ナイトはプリンセス=ウィッチを訝しげに見つめた後、優輝の後に続いた。



「うわ、どこの金持ち学校ですか」
かなり広い食堂だった。
天窓が太陽の光を集めている。白く彩られたデザインはかなり高級感をかもし出していた。
「食べたいものがあれば言って頂戴」
「んじゃあ、ラーメンで」
食生活は元々と変わってなくて幸いだ。
「すみません、醤油ラーメンと、カツカレーとハンバーグ定食のご飯大盛りをひとつずつ」
ナイトと優輝は顔を見合わせて、半口開けて乙姫の方を向いた。
醤油ラーメンと、カツカレーとハンバーグ定食ご飯大盛り?
ラーメンは自分が食べるから良いとして…カツカレーにハンバーグ定食ご飯大盛り?
誰がそんなに食べるんだ。一人しかいないか。
「乙姫さん、そんなに食べてよく太らないですね」
「わ、悪かったわね。昨日から仕事ばっかで食事取ってないのよ」
「プリンセス=ウィッチが大食いだとは初めて知りました」
「うっさいわね。さっさと座る!」
食堂にいる生徒は、やはりさきほどと同じような視線でこちらを凝視している。
それほど、この綺麗な女性が気になるのだろうか。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第287号
ページ番号
6 / 51
この作品について
タイトル
魔法のサンクチュアリ
作者
ろっど(ロッド,DoorAurar)
初回掲載
週刊チャオ第286号
最終掲載
週刊チャオ第332号
連載期間
約10ヵ月26日