01-1
魔法のような力―魔力。
魔法とはいわく法であって、魔法のような力の事を示すわけではないらしい。
そして魔力の源である、呪力。
それらを使うために必要不可欠な呪文(じゅぶん)。
契約するのが義務となっているチャオ。
善い事をしたらプリンセス=ウィッチの判断で呪力が与えられる。
それは日常に行われているらしい。
まあ、そんな事はどうでも良かった。
目先の問題は、経験した事もないこの転校という大いなる壁なのだから。
魔法のサンクチュアリ 01 -魔法界のお姫さま-
中央魔法第一高等学校、第一学年特別魔力クラス。
通称、“エリート学級”。
誰が付けたのだろうかと疑いたくなるネーミングではある。
昨日教えてもらったところ、魔法界のここでは、学校を中心として円形に街が広がっているらしい。
住宅街には、主にショッピング・ストリートやはたまた外食店まで。
一部、空港というものもあるが飛行機が飛んでいるようには見えなかった。
学校の上には、窓一つ無い中央政府。
例の女性―胸辺りまで伸びた綺麗な黒髪と、完全無敵の美貌を併せ持つ八島乙姫が住んでいるのもこの上だという。
「転校生さん、どうぞー」
転校生さんて、どんな先生だよ、と思いながら、優輝はドアを開けてさりげなく入った。
「初めまして、江口優輝です。突然転校してきましたので良く分からない事も多いですが、これからよろしくお願いします」
国語の教科書で読んだ「挨拶の仕方」に書いてあった事を言っただけだった。
教室に拍手が起こった。やる気の無い拍手だった。
…あんま歓迎されてない?
「当然ですよ」
ナイト=ノクターンが優輝の後ろでささやく。
「昨日の騒ぎは有名ですし、何よりプリンセス=ウィッチとあれほど親しければ目の敵にされるでしょう」
「親しいってほどじゃないんだけどな…」
「では江口くん、向こうの席へ」
ショートカットの女性教師がうながし、優輝はそそくさと向かった。
席に着くなり、即行で隣の女子に声をかけられる。
「人間界から来たって、ほんと?」
髪を後ろで一括りにした、活発そうな少女だった。
綺麗な肌をしているが、乙姫とは違った美人である。
魔法界ってのは女の子が綺麗なんだなあ。
「本当だよ」
教師に気付かれないようにそっと話しかけた。
にこにこと笑った少女は、そのまま前を向く。
嫌な予感がした。
「電車なんてものがあるの!?」
「うわあ、すごーい!」
「車? それってどういう風に動かすの?」
休み時間に騒がれた。
あまりややこしかったり、騒がしかったりするのは好まない優輝にとって、拷問に近い。
ナイトは落ち着いて読書に耽っている。出来たやつだ。たまに頭の上のあれが当たって痛い。
すると、突然静かになった。
誰か来たらしい。
「本庄よ」
「やだー、何しに来たの?」
回りにいた生徒は一点を見つめている。
髪の毛が立っている男子生徒。ネクタイをだらしなく着ている。
「江口優輝ってのは、お前か?」
優輝を直視して言った。
対して優輝は頷くだけ。
「きゃあきゃあ騒がれるのがそんなに楽しいか?」
「いやあ全然」
「ふん、てめえが本当に200万も呪力を持ってるのか、試してやる」
ナイトが本を置いた。
本庄と呼ばれた男は隣に従えているチャオに目配せすると、
「やるぞ」
とだけ言う。
チャオはおそらく、本庄に支配されているのだろう。
優輝の目つきが変わった。
「チャオを支配して、そんなに楽しいか?」
何言い出すんだこいつ、という視線で見ているのは、本庄だけではなかった。
「てめえもやってるじゃねえか」
「俺は支配なんてしてない」
「嘘付け!」
本庄のチャオが、優輝めがけて突進してくる。
優輝は何もしなかった。だから、そのチャオに吹っ飛ばされた。
「ナイト、契約を解除する方法は?」
「簡単ですよ。“ディレクト・コントラクティ”は完全な分、解除もしやすいですから」
まあ、もう一回されたら意味ないですけどね―という言葉を無視して、優輝は願った。
何よりも、チャオのために。
「契約解除の呪文を教えてくれ」
「僕がやりますよ。仲間を助けるのに異論はありません」
「“結集の火炎”!!」
ああ、昨日から火難の相が出てるのか。
また火だ。
「“キャンセル・コントラクティ”」
チャオは脱力したように倒れ伏せた。それと同時に、本庄から炎が文字通り飛んで来る。
魔力の使えない優輝は、炎を右腕でまともに受けてしまった。
再び吹き飛ばされる。壁に激突する。
「何のつもりだ? 契約を解除す―」
「お前こそ何のつもりだよ! 生き物が生き物を支配して良いと思ってんのか!?」
「ったり前だ! 両方にメリットがあればそれで良いんだよ!」
「人間にしかメリットなんて無いじゃねえか!!」
優輝は本気で怒っていた。
「他に方法があるのに、自分だけ楽しようとしてチャオを支配するなんてもっての他だ!」
「はあ? 良い子ちゃんが、ふざけた事抜かしてんじゃねえ!」