第5話「謎」
扉の奥から出てきた実験体は・・・。銀色のチャオだった。
だが、生きている感じはしなかった。まるでゾンビのように・・・。
銀色のチャオがゆっくりとディンに向かって歩き出す。
ディンはセイバーを腰から抜き、構えた。
「気色悪い奴だな・・・!」
セイバーを片手に持ち替え、銃を取り出す。
実験体の心臓部分を狙い、トリガーをゆっくり引いた。
バジュン!
見実験体の心臓を貫き、倒れるかに見えたが・・・。
何と、貫いた穴は徐々にふさがり、やがて無くなった。
ニィッ、と不気味な笑みを見せ、今度は走り出した。
「な・・・!」
ディンが戸惑う隙に、銀色のチャオは徐々に迫ってきた。
銃で乱れ撃ちをするが、やはり穴は全てふさがってしまう。
ある程度ディンに近づいた実験体の腕が伸び、ディンの首筋を掴んだ。
空中に持ち上げられ、もがいているディンがやっとの事で口を開いた。
「ぐ・・・!お前は一体・・・!?」
「俺はデルタ。神の領域を踏み込んだ一人だ!」
デルタというチャオが手を離し、ディンは地面に倒れこんだ。
しばらくの間、ディンはデルタを睨みつけた。
「神の領域・・・?ふざけるなぁっ!」
ディンが素早くセイバーを振り、デルタの片腕が落ちた。だが・・・。やはり片腕は元に戻ってしまう。
「少しは頭を冷やした方がいいぞ。ディン・・・!」
デルタは何と、手を刃物に変え、じりじりと迫る。ディンは立ち、再び体制を直した。
「てやぁぁぁぁ!」
大きな声を出し、ディンががむしゃらに突っ込むが・・・。
ジュバッ!
デルタの刃には血が付いている。何とディンの腕の部分を斬ったのだ。
セイバーで防いだおかげで、傷は深くはなかった。
「ぐっ・・・!」
痛みに堪え、歯を食いしばり、ディンは腕の部分をもう片方の手でふさぐ。
デルタの刃は手に戻り、手の先には血がこびり付いていた。
「俺の特性は想像した物を武器にする『物質化』だ。勿論自分の身体を物質化しているのだがな。」
「じ、自分の身体を物質化・・・?お前はチャオじゃないのか?」
「だから言っただろう。神の領域を踏み込んだ一人と。」
「神の領域・・・?お前の何処が神なんだ!姿かたちも無いただの物質じゃないか!」
ディンは銃を構え、デルタの頭を狙った。
だが、放つと同時に避け、レーザーは壁に激突した。
「遊びのつもりか?」
「いいや、ちゃんと戦っているさ!」
今度は胴体を狙い、トリガーを引いた。
レーザーは見事に貫通し、穴が開くものの・・・。やはりふさがれてしまった。
「まだ分らないのか!無駄だと言う事を!」
だが、その質問には答えず、何かを見つけたかのようにディンは笑った。
「神にも弱点はあるんだな・・・!」
「馬鹿を言うな。私に弱点なんぞ・・・!」
「なら、次で分らせてやるよ!」
セイバーと銃を取り出し、足に力を混めて駆け出した。
デルタはまた手を刃物に変え、ディンが迫るのをただ待っていた。
シュバッ!シュバッ!
デルタの両腕が地面に落ち、攻撃を防ぐ物は何もなくなった。ディンはそれを狙っていたのだ。
ディンはすかさず銃を頭部に押し付けた。
「な・・・!」
両腕が徐々に治っていくが、既に遅かった。
「だから言っただろう、遊びじゃないとな!」
ディンは銃のトリガーを素早く引いた。
バジュンッ!
レーザーはデルタの頭部を貫通し、デルタはそのまま倒れた。
先ほど斬った両腕は銀色の水に変化し、地面へと消えた。
「な・・・何故俺が・・・」
苦しむような声でデルタが弱弱しく言った。
だが、ディンは何も言わなかった。
「そうだ・・・。思い出したぞ、貴様は『イプシロン』だな・・・?」
「イプシロン・・・?」
デルタは大きく深呼吸し、こう言った。
「イプシロン、よくも裏切ったな・・・!」
そう言うと、デルタの身体は銀色の水に変化し、跡形も無く消えてしまった・・・。
一つの『謎』を残したまま・・・。