~夢見る乙女~
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どうして。
好きな人への思いはいつもこう素直じゃないのだろう。
実が走っていく途中に1度振りかえり、私が泣いているのに気付き、
ギョっとした表情を見せるとまたこちらへ戻ってきた。
「な、なんだよ、どうかしたのかよ」
実が心配している声でそう言ってくれた。
今度は素直に言わないと、そう自分に言い聞かせた。
「足くじいちゃったみたいで。痛くて歩けない」
そう言いきった。
女のコは好きな人にはこのくらい言うだけでも勇気、すごくいる。
「ふーん。じゃ、保健室行かないとな。ホラ、乗れよ」
そういうと実は背を向けて私に背中を差し出した。
「ハ!?」
ついそう声が出てきてしまった。
「おんぶだよ。歩けないんだろ」
実は何も気にしない表情でサラリと言った。
「う・・・うー・・・ん」
曖昧に返事を返すと私は静かに立って、震える足と手で実の方へ手を
掛けた。
「よっ・・・と」
実がそう掛け声をすると、ひょい、と私の足と体が持ちあがった。
男のコって結構力あるんだな。
心臓がドギマギになりながらも冷静にそう考えた。
やだな、心臓の音聞こえてたらどうしよう…。
実の体温が伝わってくる。
不思議と安心を感じ、いつしか私は深い眠りについた。
―――――何時間くらい経ったのだろう。
気がつくと、私は保健室のベッドに横たわっていた。
「あ・・れ 私」
私がそう呟くと、その声に反応したかの様にカーテンごしに
見える影がピク、と動いた。
「あ、起きたか?」
実がそう言った。
え、もしかして、私…。
「寝ちゃ・・・った?」
「うん。」
ギャ━━━━(////■///ノ)ノ━━━━!!!!!!
ひぇぇ。私、寝ちゃったんだ。
急に恥ずかしさがこみ上げてきた。
「あ、あ、あの・・・」
私は何言っていいのかわからなくなって、「あ」しか出なかった。
だったら、言わなければいいだけの話しなんだけど。
しかし、私はピン、と考えが浮かんだ。
今、ここには誰もいない。
私と実だけ。
誰も入ってくる気配はない。
ここで今度こそ告白をしようか。
急にドキドキと心臓が高鳴ってきた。
恋の心拍数最高潮。
「じゃ、教室戻るか」
と、実が立ち上がろうとした。
「待って」
私は実のジャージの袖を掴んでとっさに呼びとめた。
ポッケの中には21回失敗してやっとできた特製トリュフがある。
「どうした?早く行こうぜ」
そう実がもう一度行こうとした。
「待って!」
私がもう一度言った。
「なんだよ、さっさと言えよ」
実の頭からはバレンタインなんて消え去っているのかもしれない。
「・…好き」
一瞬にして全てが静かになったよう。
心臓の音も耳に入らない。
「え?」
実が聞き返した。
「私、実が好き。大好き。」
黙って私を見つめる実が、やっぱり愛しく感じた。